公貸権について

18日の日記で

国会議員の中には著作権法について少しでも興味のある人はいないのだろうか。

と書いたが(id:coyright:20030818)、「貸与権」ということばで検索をかけたら衆議院議員赤松正雄氏のホームページの中の記述が引っかかってきた。

赤松正雄氏のホームページ
新国会リポートNO.223 出版不況をどうのりこえるか−公共貸与権をめぐる論考
http://ws.31rsm.ne.jp/~akamatsu/kokkairepo/kokkairepo0233.html

あまり期待しないで読んでみたが、やはり予想通りだった。
最初の見出しが

★「本を誰が殺すのか」の犯人さがし

となっているので、出版界の問題点を放置しながら出版不況の原因を他者に転嫁していることを批判しているのか、と期待したのだが、そうではなかった。

公共貸与権(公貸権)の導入に基本的に賛成しつつ、その実現のためにクリアしなければならない問題点を指摘してるだけのもので、基本的には、一部の作家達の主張を後押しするものでしかなかった。
しかも公貸権についての理解も中途半端というか、所詮は一部の作家達が「隣の芝生は青い」から日本でも導入してくれ、と主張しているレベルの理解に過ぎず、諸外国の公貸権の制度を調べた形跡が見られない。
赤松氏は、次のように述べている。

それに、限られた図書購入予算から補償金を生み出すことは、本の購入そのものの範囲を狭めることになる。

そもそも公貸権とは、自国の文化文藝振興のために国が基金を設立して、そのなかから図書館での貸出状況に応じて補償金を払う制度である。図書館の予算の中から補償金を支払う制度では決してない。
そんなことも理解せずに公貸権について語るなんてちゃんちゃらおかしい。
与党で著作権に関心のある議員のレベルがこの程度では、この国の著作権行政は文化庁の言いなりになっても仕方がない。

公貸権について語るのなら、最低限次の文献を読んでからにしてもらいたい。

南亮一. 「公貸権」に関する考察−各国における制度の比較を中心に. 現代の図書館. Vol.40, No.4, (2002), p.215-231.

各国の「公貸権」の制度についてわかりやすくまとまっている。
この文献を読まずには「公貸権」を語れない、というぐらいの基本文献である。

なお、著者の南亮一氏は国会図書館の職員である。
国会議員には特権があり、国会図書館に必要な調査をさせることができる。
もし、真剣に公貸権の導入を考えるのなら、国会図書館に各国の「公貸権」についての調査をさせてみるべきである。そうすれば、一部の作家達が主張していることが的はずれであることがよく分かると思う。