これは「引用」ではない

本書の論争の中心となる「アンペイドワーク」という言葉について、私は不勉強のため知らなかったが、多分そういう人も多いのだろう。「本書の成り立ちについて」の中では直接の説明をせずに、以下のように記している。

アンペイドワーク論の辞典的な説明は、文末に引用した『女性学事典』(岩波書店刊)を参照していただくことにして、ここでは触れずにおきます。

そして、文末に「引用」と称して「女性学事典」の「アンペイドワーク論」の項目をまるまる全文掲載している。(女性学事典のアンペイドワーク論の項目の執筆者は久場嬉子氏)

これは引用ではありません。

詳しい説明は省きますが、著作権法32条の「引用」の要件を満たしていません。
つまりこれは、著作権者に無断で行うことのできる「引用」ではなく、著作権者の許諾が必要になります。(著作権者の許諾を得たかどうかについては記されていないので分かりませんが)

こういう「引用」という語の誤用は非常に多く見られるので、そうそう目くじらを立てなくても良いのだが、本書については目くじらを立てたい。
なぜなら出版社が太田出版で、太田出版「クリエイター・編集者のための引用ハンドブック」という本を出版しているからである。

クリエーター・編集者のための引用ハンドブック (ユニ知的所有権ブックス)

クリエーター・編集者のための引用ハンドブック (ユニ知的所有権ブックス)

太田出版の編集部員なら「クリエイター・編集者のための引用ハンドブック」ぐらいは読んでいてもらいたい。
せっかく良い本を出していても、それが自社内ですら活かされていないのは、ちょっと情けないと思う。