検討経緯等に関する質問主意書への答弁

もう一つの質問主意書今国会提出の著作権法の一部を改正する法律案に於ける暫定措置廃止に係る検討経緯等に関する質問主意書への答弁書もARTSの掲示板に掲載されたので、こちらもツッコミを入れます。

質問主意書

一 文化庁は、今回の法案を提出するに際して私立図書館を所管する文部科学省生涯学習政策局及び学校法人を所管する同省高等教育局私学部と協議を行なったのか。行なっている場合、その協議内容と合意事項について報告書に全く記載されていない理由は何か。

答弁

一について

 今国会に提出している著作権法の一部を改正する法律案は、文化審議会著作権分科会報告書(以下「報告書」という。)を踏まえて、文部科学省内の各部局の了承を得た上で提出したものである。また、報告書には、従前より、文部科学省内の協議の内容について記載されていないところである

これについては、特になし。

質問

二 著作権に関する世界知的所有権機関条約(二〇〇二年三月十四日発効)第七条では「(鄯)コンピューター・プログラム」「(鄱)映画の著作物」「(鄴) レコードに収録された著作物であって締約国の国内法令で定めるもの」については「当該著作物の原作品又は複製物について、公衆への商業的貸与を許諾する排他的権利を享受する」ものと定められているが、書籍又は雑誌については本条並びに同条約の全文を見渡しても一切の規定が存在しない。同条約に於ける一切の規定が存在しない状況に於いて、権利者に対して特に当該書籍又は雑誌の貸与を禁止する権利を付与している国は同条約加盟国の内、何か国にのぼるのか。

答弁

二について

 著作権に関する世界知的所有権機関条約(平成十四年条約第一号。以下「条約」という。)においては、書籍又は雑誌の貸与権についての規定は存在しないが、条約は、加盟国が国内法において、書籍又は雑誌の貸与権を著作者に与えることを排除するものではない。条約の他の加盟国の国内法制について網羅的に把握は把握していないが、例えば、欧州連合加盟国については、「貸与権及び公共貸与権並びに知的財産分野における著作権に関連する特定の権利に関する一九九二年十一月十九日の理事会指令」により、建築物及び応用美術の著作物を除き、書籍及び雑誌を含む全ての著作物に関し貸与権又は公共図書館等の貸与に対して報酬の支払いを義務付ける公共貸与権を定めることが義務付けられているものと承知している。

EU指令については私も詳しくは調べていないので、正確なところはわからないが、広範な例外措置規定が設けられているらしい。( 「公貸権」に関する考察--各国における制度の比較を中心に (特集:著作権・公貸権・図書館) / 南 亮一 現代の図書館. 40(4) (通号 164) [2002.12]参照)なお、EU指令では、貸与とはrental(商業目的の貸与)とlending(非営利の貸与)とが明確に分けられているが、日本の著作権法ではこの2つが明確に分けられておらず、「非営利・無料」の貸与が権利制限とされているだけである。この点について、きちんと分けて考える必要があるだろう。

質問

三 附則廃止によって著作権法第二十六条の三に規定する権利を行使できるのは「書籍又は雑誌」の権利者であり、特に書籍または雑誌の貸与を禁止する権利が権利者に付与された場合、図書館法第二十八条に基づき利用に係る対価を徴収している私立図書館による「非営利・有償」の貸与や、鉄道会社が乗客へのサービスを目的として駅などに設置している文庫などの「営利・無償」の貸与に対しても多大な影響が及ぶことが予想されるが、報告書では「営利・有償」の貸本業についてのみが検討の対象とされており「非営利・有償」ないし「営利・無償」の利用形態に与える影響について、分科会では一切の検討がなされていないものと認められる。その理由は何であるか明らかにされたい。

答弁

三について

 著作権法(昭和四十五年法律第四十八号。以下「法」という。)附則第四条の二は、昭和五十九年に、映画の著作物を除いた著作物の著作者に対して、法第二十六条の三に規定する貸与権が創設された際に、我が国における貸本業の実態や権利者の許諾を容易に得ることができる集中管理体制が未整備であったことなどを踏まえ、書籍又は雑誌の貸与による場合には、貸与権の規定は適用しないこととされたものである。しかし、近年、事業を大規模に展開する貸本業者の出現により、著作者の経済的利益に大きな影響を与える事態が生じていたため、文化審議会著作権分科会において、法附則第四条の二の削除の適否について、御審議いただいたものである。
 なお、法附則第四条の二が削除された後の書籍又は雑誌の貸与については、他の著作物と同様に、法第二十六条の三及び第三十八条第四項の規定が適用されることが制度の原則と考えられ、これらの規定の個別具体的な事例に関する適用関係について、逐一御審議いただかなかったものである。

この答弁は非常に重要である。政府というか文化庁のスタンスがよくわかる。
きちんと質問に答えていないが、貸本業が問題になったから貸本業についてのみ検討した、その検討の結果提言された書籍・雑誌への貸与権適用が、貸本業以外にどのような影響を与えるのかを検討する必要は無い、と言うことなのだろう。
はっきり言って、法改正の検討とは、こんなにいいかげんなな検討でOKなのだろうか?
このような検討しか行っていないから、音楽CD輸入権についても、ボロが出てきているのだと思う。
私は、法改正についてちゃんと追って来たのは、今回が初めてなので、他の法律もこの程度のいいかげんな検討しか行われていないのかどうかはわからないが、他の法律もこの程度の検討で立法・法改正がなされているのなら、日本は近代法治国家とは言えないのではないだろうか。

質問

四 報告書には、附則廃止の前提となる関係者間の合意が貸与権連絡協議会(以下「協議会」という。と「旧来の貸本業者」の間で為された旨が記載されているが、報告書に於いて実際に協議の当事者であった全国貸本組合連合会(以下「貸本組合」という。)の固有名詞名を表記せず「旧来の貸本業者」と表記した理由は何か。また、貸本組合が平成十五年十二月十日より二十四日まで行なわれていた文化審議会著作権分科会の意見募集に於いて提出した意見書(別紙)には『「書籍・雑誌等の貸与」に係る暫定措置の廃止については、“関係者間の合意が形成された事項”とはまだいえず、協議を続行中であり、さらに検討を重ねるように求めます』とあり、本意見書の提出を以て協議会の合意を撤回したものと判断されるが、文化庁が本意見書を以て法案提出の前提とされる関係者間の合意が撤回されたとみなさない理由は何か。

答弁

四について

 報告書の八頁及び九頁において、作家等の著作権者と協議を行った旧来の貸本業者の団体として、全国貸本組合連合会(以下「連合会」という。)が明記されている。
 また、報告書案について行われた意見募集に対して、連合会が平成十五年十二月二十四日付けで提出した意見書については、作家等で構成される貸与権連絡協議会(以下「協議会」という。)と連合会が法附則第四条の二の削除について合意した内容と矛盾するということが考えられたため、協議会を通じて、連合会に当該意見書の趣旨を照会したところ、協議会との合意を撤回するものではないことを確認したところである。

何で貸与権連絡協議会を通じて全国貸本組合連合会に確認するのだろうか?
というより、貸与権連絡協議会と全国貸本組合連合会の双方に確認すべきことでしょう?

このような答弁では納得できないし、法改正の検討を行う姿勢がずさんでいいかげん過ぎる。