有料会員制図書館の会員向け貸出には貸与権は及ばない

GIGAZINEのヘッドラインから来られた方への注記 (22:54追記)

GIGAZINEのヘッドラインから来られた方は、次のエントリも併せて読んでください。

GIGAZINEのヘッドラインに取り上げられたが。- Copy & Copyright Diary
http://d.hatena.ne.jp/copyright/20090604/p2

                • -

書籍・雑誌への貸与権適用について、こだわり続けているので、何度でもこの話題を取り上げます。
先月の中頃、次の記事を見つけて、あれ? と思った。

神戸新聞阪神北摂|宝塚にメディア図書館 芸術系書籍や写真3万点
http://www.kobe-np.co.jp/news/hanshin/0001913911.shtml

NPO法人が運営する図書館についての記事だが、気になる箇所は次のところ。

蔵書は会員登録すれば無料で閲覧可能。貸し出しは有料。

(強調:引用者)

http://www.kobe-np.co.jp/news/hanshin/0001913911.shtml

貸出が有料だと、貸与権が及ぶのではないか、というのが気になった。
貸与権には権利制限規定があって、「非営利」かつ「無料」の貸与には権利は及ばず、許諾を得ることなく自由に貸与できることになっている。(著作権法第38条4項)
しかし、この記事によると「貸し出しは有料」とのこと。有料の貸し出しであれば、非営利であっても、貸与権が及んでしまう。
権利処理はどのようにしているのだろうかと気になった。


そうしたら、先日次の記事が出た。

神戸新聞阪神北摂|宝塚メディア図書館開館 米雑誌「ライフ」閲覧も
http://www.kobe-np.co.jp/news/hanshin/0001978562.shtml

この記事によると、

貸し出し(3冊2週間まで、一部除外)は会員登録が必要。個人会員は年会費5000円、学生会員は同3000円(いずれも税別)。

とのこと。最初の記事では貸し出しに料金が発生するような記述であったが、この記事では有料会員に対して貸し出しを行うとのこと。
これなら大丈夫、貸与権は及ばないだろう。

先にも述べたが、著作権法第38条4項において、次のように定められている。

公表された著作物(映画の著作物を除く。)は、営利を目的とせず、かつ、その複製物の貸与を受ける者から料金を受けない場合には、その複製物(映画の著作物において複製されている著作物にあつては、当該映画の著作物の複製物を除く。)の貸与により公衆に提供することができる。

(強調:引用者)

つまり「営利を目的とせず」かつ「料金を受けない場合」には貸与権は及ばない、ということだ。
最初の記事では「貸し出しは有料」と書いてあったので、「料金を受けない場合」には該当せず、貸与権が及ぶのでは無いかと懸念した。
しかし2つめの記事を読み、年会費が必要な会員を対象に貸し出しを行う、ということが分かった。
この場合なら、貸与権が及ばない可能性が非常に高い。
というのも、次のような政府見解があるからだ。

図書館法(昭和二十五年法律第百十八号)第二条第二項に規定する私立図書館又は図書館法第二十九条第一項に規定する図書館と同種の施設が、これらの施設の利用者から、図書館法第二十八条に規定する入館料その他図書館資料の利用に対する対価を徴収している場合において、当該対価が、書籍又は雑誌の貸与に対する対価という性格を有するものではなく、これらの施設の一般的な運営費や維持費に充てるための利用料であると認められる場合には、著作権法(昭和四十五年法律第四十八号。以下「法」という。)第三十八条第四項に規定する「料金」に該当しないものと解される。

http://www.shugiin.go.jp/itdb_shitsumon.nsf/html/shitsumon/b159096.htm

つまり、「書籍又は雑誌の貸与に対する対価という性格を有するもの」で無い場合は「料金」に該当しない、ということだ。
年会費という形で徴収している会費が、貸与の対価という性格だとは私庭思えない。
念のため、記事だけじゃなく、宝塚メディア図書館のサイト記述も見たが、貸し出しサービス以外の特典も多く、年会費は「貸与に対する対価」ではないと思われる。


そもそもNPO法人が運営しているのだから、営利目的では無いだろう。
そして徴収している年会費が「料金」に該当しないのであれば、著作権法第38条4項の「営利を目的とせず」かつ「料金を受けない場合」に該当するだろう。
宝塚メディア図書館のような、有料会員向けの貸し出しは、貸与権が及ばない可能性が高い


前に紹介した金沢文芸館のように、会費が料金に当たると思ってしまって、貸し出しサービスを自粛してしまった例も出てきているが、営利か非営利か、有料か無料かの判断をする際には、是非とも上記の政府答弁に目を通して頂きたい。
上記答弁については、次の本の中で言及されているので、参照して頂きたい。

関連エントリ

入館料を取る文芸館での貸出と貸与権 - Copy & Copyright Diary
http://d.hatena.ne.jp/copyright/20090226/p1

金沢文芸館の残念な判断と文化庁へのお願い - Copy & Copyright Diary
http://d.hatena.ne.jp/copyright/20090513/p1