入館料を取る文芸館での貸出と貸与権

年会費として入館料を徴収する文芸館での書籍の貸出が貸与権の侵害にあたるのではないか、という記事を、はてブ経由で見つけた。

著作権知らず 金沢文芸館、本の貸し出し
北國新聞ホームページ - ホッとニュース
http://www.hokkoku.co.jp/news/HT20090124401.htm

2003年末に文化審議会著作権分科会の方針として、書籍・雑誌に貸与権を適用させるべき、ということが打ち出され、翌年著作権法が改正されたが、私は2003年末から書籍・雑誌への貸与権適用に一貫して反対のスタンスで発言をしてきた。
このブログでも「貸与権」のカテゴリで多くのエントリーを書いている。

[貸与権] - Copy & Copyright Diary
http://d.hatena.ne.jp/copyright/searchdiary?word=*%5B%C2%DF%CD%BF%B8%A2%5D&.submit=%B0%DC%C6%B0

また、「情報管理」誌や「ず・ぼん」でも反対の立場で記事を書いている。

末廣 恒夫. “図書館と著作権−複写と貸出を中心に−”. 情報管理. Vol. 47, No. 1, (2004), 1-7 .
http://www.jstage.jst.go.jp/article/johokanri/47/1/47_1/_article/-char/ja/

貸与権著作権を考える
書籍・雑誌への貸与権の適用と図書館[末広恒夫](PDF)
ず・ぼん11
http://www.pot.co.jp/img/zu_bon/zu_11/zu11_070-075.pdf

最近は書籍・雑誌に貸与権を適用したから、レンタルコミックビジネスが盛んになった、との記事が散見されるようになったが、それでも私は、今でも書籍・雑誌への適用はすべきでは無い、反対であるとの考えている。
その理由は、まさにこの金沢文芸館のような機関の貸出に影響を及ぼすという懸念があったからだ。


貸与権の権利制限としては、著作権法第38条の4の

営利を目的とせず、かつ、その複製物の貸与を受ける者から料金を受けない場合

がある。
公立の公共図書館が貸出をできる根拠はこの条項だ。
しかし、営利を目的をしなくても料金を受ける場合や、料金を受けなくても営利を目的とする場合は、書籍・雑誌の貸出には貸与権が及ぶ。


では、金沢文芸館のケースはどうだろうか?
記事によると、

年間の観覧券(一般千円、大学生五百円)または市文化施設共通観覧券(二千円)を持つ人

http://www.hokkoku.co.jp/news/HT20090124401.htm

を対象に貸出を行っているようだ。
この場合の有料の「鑑賞券」が、貸与の「料金」に該当するのか否かが問題になる。
記事によると、著作権情報センターの見解として

金沢文芸館のケースはこの「料金」に該当し「収益目的でなくても料金を徴収しながら本を貸し出すことは著作権を侵害する可能性が高い」

とのこと。


しかし、私はこの著作権情報センターの見解は間違っていると思う。
というのも、「料金」についての政府の見解からすると、金沢文芸館のケースは「料金」には該当しないとおもうからだ。
政府の見解というのは、

川内博史, 近藤昭一.今国会提出の著作権法の一部を改正する法律案に於ける暫定措置廃止後の法律の運用に関する質問主意書. 平成十六年五月十三日提出質問第九六号.
http://www.shugiin.go.jp/itdb_shitsumon.nsf/html/shitsumon/a159096.htm

に対する答弁書がある。

衆議院議員川内博史君外一名提出今国会提出の著作権法の一部を改正する法律案に於ける暫定措置廃止後の法律の運用に関する質問に対する答弁書. 内閣衆質一五九第九六号答弁第九六号 平成十六年五月二十五日
http://www.shugiin.go.jp/itdb_shitsumon.nsf/html/shitsumon/b159096.htm

この答弁書によると、

これらの施設の利用者から、図書館法第二十八条に規定する入館料その他図書館資料の利用に対する対価を徴収している場合において、当該対価が、書籍又は雑誌の貸与に対する対価という性格を有するものではなく、これらの施設の一般的な運営費や維持費に充てるための利用料であると認められる場合には、著作権法(昭和四十五年法律第四十八号。以下「法」という。)第三十八条第四項に規定する「料金」に該当しないものと解される。

とある。
つまり

書籍又は雑誌の貸与に対する対価という性格

を持たず、

施設の一般的な運営費や維持費に充てるための利用料

は、貸与権の条項における「料金」では無い、ということだ。
金沢文芸館の「鑑賞券」は「鑑賞」の「対価」ではあると思うが、「貸出」の「対価」とは言えないだろう。
この記事における著作権情報センターの見解は、間違っていると私は思う。


今回のケースは、記事によると同館の職員の問題提起がきっかけになったとのことだが、その職員がそう思うことはある意味しょうがない。
条文を読むだけでは、上記の政府見解を読み取ることはかなり難しいと思う。
加えて、本年出版された「著作権法コメンタール」(全3巻)には、この政府見解への言及は無い。

著作権法コンメンタール 1 1条~22条の2

著作権法コンメンタール 1 1条~22条の2

著作権法コンメンタール 2 23条~90条の3

著作権法コンメンタール 2 23条~90条の3

著作権法コンメンタール 3 91条~124条・附則、著作権等

著作権法コンメンタール 3 91条~124条・附則、著作権等

もちろん、文化庁の所轄団体である著作権情報センターがこの見解を無視しているのは大問題だが、一般の人がそのような解釈をするのは無理はない。
問題なのは、貸与権の権利制限についての政府見解が広く行き渡っておらず、「コメンタール」においてすら無視されてしまっていることだろう。
この記事を読んで、私は改めて書籍・雑誌への貸与権の適用はすべきでは無い、今すぐ法改正をすべきだ、との思いを強くした。

追記 図書館に携わる方々へ

図書館と貸与権との関係については、次のエントリーも併せて読んでいただきたい。

大きく変わった「図書館無料の原則」の意義 - Copy & Copyright Diary
http://d.hatena.ne.jp/copyright/20080211/p1