金沢文芸館の残念な判断と文化庁へのお願い

これまで書いた次の3つのエントリの続きです。

入館料を取る文芸館での貸出と貸与権 - Copy & Copyright Diary
http://d.hatena.ne.jp/copyright/20090226/p1

質問趣意書への政府答弁ではダメだ - Copy & Copyright Diary
http://d.hatena.ne.jp/copyright/20090228/p1

川内議員の質問趣意書 - Copy & Copyright Diary
http://d.hatena.ne.jp/copyright/20090422/p1

年会費として入館料を徴収する文芸館での書籍の貸出が貸与権の侵害にあたるのではないか、という点について、貸出の停止を検討していた金沢文芸館が、4月から貸出を停止したとの記事があった。

中日新聞:金沢文芸館 本の貸し出し全面停止 有料観覧券保有者 著作権法に絡み:石川(CHUNICHI Web)
http://www.chunichi.co.jp/article/ishikawa/20090513/CK2009051302000155.html

記事によると

(法律に抵触する)疑義が残る状況のため、貸し出しは止めようという結論になった。

http://www.chunichi.co.jp/article/ishikawa/20090513/CK2009051302000155.html

とのこと。
最初のエントリでも指摘したが、政府の見解によれば金沢文芸館のこの貸出方法は貸与権の制限の範囲である可能性が非常に高い。
政府の見解は

これらの施設の利用者から、図書館法第二十八条に規定する入館料その他図書館資料の利用に対する対価を徴収している場合において、当該対価が、書籍又は雑誌の貸与に対する対価という性格を有するものではなく、これらの施設の一般的な運営費や維持費に充てるための利用料であると認められる場合には、著作権法(昭和四十五年法律第四十八号。以下「法」という。)第三十八条第四項に規定する「料金」に該当しないものと解される

http://www.shugiin.go.jp/itdb_shitsumon.nsf/html/shitsumon/b159096.htm

としており、「書籍又は雑誌の貸与に対する対価という性格を有するものではなく、これらの施設の一般的な運営費や維持費に充てるための利用料」は「料金」に該当しないからだ。金沢文芸館の場合も、このケースに該当すると思う。
にも関わらず、このような結論になったことはとても残念でならない。


3つ目のエントリでも触れたが、川内議員がこの件について、再度質問趣意書を提出していて、まだここでは言及していなかったが4月17日付けで政府答弁が出されている。

衆議院議員川内博史君提出図書館法第二十八条及び著作権法第三十八条第四項の規定に関する質問に対する答弁書
http://www.shugiin.go.jp/itdb_shitsumon.nsf/html/shitsumon/b171285.htm

答弁の内容は、ほとんど無きに等しいものであり、これもまた非常に残念に思う。
しかし、残念に思うだけでは何にもならないので、一つ文化庁の方に提案をしたい。
答弁の中に

文化庁としては、今後とも、著作権法第三十八条第四項の趣旨等について周知に努めてまいりたい。

http://www.shugiin.go.jp/itdb_shitsumon.nsf/html/shitsumon/b171285.htm

であるなら、是非とも文化庁のサイトにその旨を掲載して頂きたい。
文化庁のサイトの中にPDFの「著作権テキスト」が掲載されている。
その「著作権テキスト」に「書籍又は雑誌の貸与に対する対価という性格を有するものではなく、これらの施設の一般的な運営費や維持費に充てるための利用料」は「料金」に該当しないと明記して頂きたい。
政府の見解なのだから、是非とも載せるべきでしょう。

また

平成十六年当時の文化庁著作権課長が、社団法人著作権情報センター(以下「センター」という。)からの依頼に応じ、センターが発行している会員等向けの雑誌「コピライト」において、先の答弁書(平成十六年五月二十五日内閣衆質一五九第九六号)一についてで述べた内容を含め、著作権法の一部を改正する法律(平成十六年法律第九十二号)の解説を行ったところである。

http://www.shugiin.go.jp/itdb_shitsumon.nsf/html/shitsumon/b171285.htm

とあるが、それならば是非とも、文化庁編著で社団法人著作権情報センター発行の「著作権法入門〈平成18年版〉」にも、上記の内容を掲載して頂きたい。先日主要な著作権関連書を調べてみたが、同書にはその旨の記述は無かった。
このような状況では、文化庁が「著作権法第三十八条第四項の趣旨等について周知に努めて」いるとは言えないと思う。
文化庁がその著書の中で明記することがまず重要ではないだろうか。
是非ともお願いしたい。


これは文化庁だけへのお願いではない。
著作権法の研究者の方々も、是非ともこの政府見解の周知をして頂きたい。
一般の人が著作権について調べるときに参照するような著書に言及が無ければ、この政府見解が参照されることはないだろうし、このままでは金沢文芸館のような不幸な事例が今後も出てきてしまう。
このようなことが今後も起きないように、是非ともこの件について言及して頂きたい。*1


私が一番恐れているのは、金沢文芸館のように自粛してしまうケースが積み重なって、既成事実になってしまうことだ。
政府見解に基づけば、料金を取っていても自由に貸し出しできるケースであっても、既成事実ができてしまえば、料金を取っている場合はどのような場合でも貸出ができなくなってしまうだろう。
そうなってしまった場合、例えば、大学の授業料だって「料金」に該当するのではないか、という議論だって出てきかねない。*2
そうならないように、金沢文芸館のような残念なケースが今後はでてこないようにしたい。

*1:なお、今年の4月に出た「新版 表現活動と法」という本の中では、未だに書籍・雑誌には貸与権が及ばない旨が記述が見られる。(171頁)このような本は問題外である。/6月27日追記:該当箇所について正誤表が出されている。http://www.musabi.co.jp/errata/index.html

*2:大学図書館関係者でそのことを認識している人はいるのだろうか?