先日の貸与権についてのエントリで、川内議員らの質問趣意書に対する政府の答弁書を紹介し、それがあるから入館料を徴収する文芸館でも、貸出料を徴収しない貸出は、貸与権の制限の対象になるということを書いた。
そして、そのエントリの中で、著作権情報センターがこの答弁書の見解とは違う回答をしていること、著作権法コンメンタール 2 23条~90条の3にはその答弁書への言及が無いことを述べた。
そこで気になったのだが、他の著作権関連書ではこの答弁書への言及があるのかということだ。
著作権関連書籍にこの答弁書に記載されている見解への言及が無ければ、入館料という形で料金を徴収している各種図書館等の機関が本を貸し出しすることが貸与権を侵害すると解釈しても仕方がないと思う。
そこで調べて見た。
対象は2004年6月以降に出版された主要な著作権法の解説書・入門書・体系書。*1 *2
貸与権(著作権法第26条の3)と、営利を目的としない上演等の権利制限規定(第38条)の解説箇所で、答弁書への言及があるかどうか。
結果は悲惨。ほとんど言及されていない。
明確に言及していたのは図書館サービスと著作権 (図書館員選書 (10))のみ。
50頁の注17、116頁の注26で答弁書への言及がある。
また、著作権法詳説―判例で読む16章では、答弁書には直接言及していないが、授業料を徴収していても、権利制限の非営利・無料の貸与に該当する旨の記述がある。
なお、貸与権稼働後も、非営利・無報酬の貸与については許諾不要である(三八条四項)。私立学校内の図書館が在校生に蔵書を貸与する場合などである。
ただし、貸与権についてしつこく追いかけてきた私にとっては、この記述で答弁書の見解に基づいていることを理解できるが、一般的にはどうだろうか?
そして、それ以外は全滅。
以下に参照した本と、その該当ページを表にした。
書名 | 出版年月 | 第26条の3 | 第38条 |
詳解著作権法 | 2004年10月 | p.283-288 | p.361-362 |
著作権が明解になる10章 | 2005年3月 | p.118-119 | p.232-233 |
実務者のための著作権ハンドブック | 2008年11月 | p.38 | p.80-82 |
著作権の法律相談 (青林法律相談) | 2005年11月 | p.214-221 | - |
著作権法概論 (放送大学教材) | 2006年3月 | p.84-85 | p.140 |
著作権法逐条講義 | 2006年3月 | p.203-207 | p.272-274 |
著作権法 第3版 | 2007年4月 | p.184-186 | p.255-257 |
図書館サービスと著作権 (図書館員選書 (10)) | 2007年5月 | p.50 | p.69-70,p.114-121 |
著作権法詳説―判例で読む16章 | 2007年9月 | p.249-255 | p.304-306 |
著作権法 | 2007年10月 | p.234-238 | p.278 |
著作権法―制度と政策 | 2008年4月 | p.145-147 | p.223 |
Q&Aで学ぶ図書館の著作権基礎知識 (ユニ知的所有権ブックス) | 2008年5月 | p.33 | p.56-58,p.138-143 |
著作権法講座〈第2版〉 | 2008年6月 | p.132-134 | p.189 |
著作権法入門〈2008〉 | 2008年10月 | p.26-27 | p.102-103 |
著作権法コンメンタール 2 23条~90条の3 | 2009年1月 | p.41-56 | p.297-322 |
著作権法概説 | 2009年2月 | p.143-145 | p.164-166 |
これだけ調べても、明確に言及されていたのが1冊、事情を分かっていれば類推できるのが1冊と2冊しかなかった。
こんな状況では、金沢文芸館の職員や、著作権情報センターが、入館料を徴収している機関での貸出は貸与権を侵害すると判断しても無理はない。
私も、条文だけではそのような解釈になるということを指摘してきたし、書籍・雑誌への貸与権適用への反対のベースにはそれがあった。
川内議員の質問趣意書への政府答弁が出されたことで、とりあえず、私の懸念の大半は解消されたと思っていたが、*3その答弁書の見解が著作権関連書でほとんど言及されていなかった。
こんな状況では、質問趣意書を出して政府答弁を得ても、あまり意味は無かったと思う。*4
つまり、質問趣意書を出して、政府答弁を引き出したとしても、やはり法律の条文に書かれていなければダメだということだ。
質問趣意書への政府答弁というのは、所詮その程度のものでしか無かったのだろう。
今後も著作権法の改正がなされると思うが、その改正に懸念があったら、政府見解を引き出すだけで満足してはダメだ、条文を変えなければダメだ、ということを痛感した。