ヨーカドー「子ども図書館」閉館へ 大宮など全国8館 突然の告知にあぜん
http://www.saitama-np.co.jp/news08/02/04l.html
この記事を読んでびっくりした。
イトーヨーカドーの「子ども図書館」が全館閉鎖されるとのこと。
イトーヨーカドーのサイトにはCSR活動の一環として、子ども図書館の活動にも触れられている。
イトーヨーカドー 社会的責任CSR | 地域社会への約束 | 地域の子育て支援
http://www.itoyokado.co.jp/company/profile/csr/community/com01.html
これによると、2008年2月時点で全国に10館あったとあるが、この記事では全国8館となっている。
既に2館は閉鎖されたのだろう。
『子ども図書館』は、年齢やお住まいの地域に関わりなく、簡単な登録手続きだけで、どなたでも無料でご利用いただけます。また、各館とも専門の司書が常駐し、利用者の相談に応じているほか、館内ではお話会や工作会なども随時開催しています。2008年2月末現在、設置店舗数は10店舗(沼津・豊橋・秋田・大宮・堺・加古川・郡山・安城・福山・浜松宮竹)、会員数は約39万3,000人、年間貸し出し数は約21万1,000冊となっています。
CSR
私がイトーヨーカドー子ども図書館を知ったのは、書籍・雑誌への貸与権適用の問題点を調べている時、知人から教えてもらった。
だから、直接イトーヨカドー子ども図書館を利用したこともないし、訪れたこともない。
あくまで、このような図書館が活動しているということを知っているだけだ。
でも、その当時の私にとっては、イトーヨカドー子ども図書館の存在は非常に大きかった。
というのも、このイトーヨカドー子ども図書館は、書籍・雑誌に貸与権を適用とした場合、問題となるケースだからだ。
公表された著作物(映画の著作物を除く。)は、営利を目的とせず、かつ、その複製物の貸与を受ける者から料金を受けない場合には、その複製物(映画の著作物において複製されている著作物にあつては、当該映画の著作物の複製物を除く。)の貸与により公衆に提供することができる。
この条文により、非営利・無料の貸与には貸与権は及ばない。
そこで問題となるのが、イトーヨーカドーという民間企業(=営利企業)が運営している図書館の貸出が「営利」とみなされるか否かだ。
「営利」と見なされ無ければ、無料で貸し出す限り貸与権は及ばないが、「営利」と見なされれば無料で貸し出していても貸与権が及んでしまう。貸与権が及べば、著作権者の許諾を得なければ貸し出すことはできない。
この点については、民主党の川内議員らが2回質問趣意書を出して、政府の答弁を引き出している。
2004年の質問趣意書では
四 大手スーパーマーケットの中には児童の利用に資するため図書館法第二十九条の「図書館と同種の施設」としての文庫を店内に設置している事例も見られるが、運営主体が株式会社であることにより著作権法第三十八条第四項の要件に該当しないものとみなされ、その設立・運営趣旨の如何に関わらず附則廃止後は権利者等による貸与への規制が及ぶこととなるのか。また、こうした形態によって児童への書籍又は雑誌を貸与により提供する行為を著作権法に於いて禁止する権利を付与することは子どもの読書活動の推進に関する法律(平成十三年法律第百五十四号)第三条(国の責務)に反し、権利者等が附則廃止後に本権利の行使により貸与を禁止する行為は同法第二条(基本理念)及び第五条(事業者の努力)に反するものではないのか。
http://www.shugiin.go.jp/itdb_shitsumon.nsf/html/shitsumon/a159096.htm
という質問を出した。明記はされていないが、大手スーパーマーケットというのはイトーヨーカドーのことと考えて良いだろう。
それに対し、政府は次のような答弁を出している。
お尋ねのように、大手スーパーマーケットが、店内に文庫を設置して、顧客に書籍等の貸与を行う事例も見受けられる。そのような場合には、当該行為が、例えば、顧客の増加を通じてその売上げの拡大を図ることを目的として行われるものであるならば、法第三十八条第四項に規定する「営利」を目的とするものに該当するものと解される。
http://www.shugiin.go.jp/itdb_shitsumon.nsf/html/shitsumon/b159096.htm
読書活動の素材となる書籍等を創作する著作者の権利について、適切な保護を図ることは、子どもの読書活動の推進に関する法律(平成十三年法律第百五十四号)の趣旨に反するものではない。今国会に提出している著作権法の一部を改正する法律案により、書籍等の貸与について、貸与権を及ぼすことは、著作者の権利の適切な保護を通じて、書物の創作活動の促進に資するものであると考えている。
つまり、顧客増大・売上げ拡大を目的としているならば、「営利」である、というものだ。
さらに今年出された質問趣意書では、この答弁を受けて
先の答弁では、イトーヨーカ堂が一部店舗で実施している子ども図書館に代表される形態の事業は貸与の有償・無償に関わらず違法との見解が示されているが、改正法の施行後、文化庁からイトーヨーカ堂に対して子ども図書館事業の中止または権利処理手続を行うよう指導した事実は存在するのか。
http://www.shugiin.go.jp/itdb_shitsumon.nsf/html/shitsumon/a171285.htm
との質問を出し、
文化庁としては、御指摘の「イトーヨーカ堂が一部店舗で実施している子ども図書館」の事業目的等について承知しておらず、また、当該事業について、御指摘のように「貸与の有償・無償に関わらず違法との見解」を有しているものではない。
http://www.shugiin.go.jp/itdb_shitsumon.nsf/html/shitsumon/b171285.htm
との答弁が出されている。
2004年時点の答弁に置いて
手スーパーマーケットが、店内に文庫を設置して、顧客に書籍等の貸与を行う事例も見受けられる。
としていながら、今年の答弁では
化庁としては、御指摘の「イトーヨーカ堂が一部店舗で実施している子ども図書館」の事業目的等について承知しておらず
としており、政府答弁に矛盾があると思う。それとも、イトーヨーカドー以外の大手スーパーで子ども図書館のような活動をしている事例があって、政府(=文化庁)はそっちは知っていたが、イトーヨーカドーの子ども図書館は知らなかったと言うのだろうか?
それはともかく、イトーヨーカドーの子ども図書館が閉鎖されてしまうとのこと。
閉鎖の理由は、記事によると
環境の変化からか、来店者が著しく減少しています。子ども図書館はひとつの役割を終えたのではないかと考えた
http://www.saitama-np.co.jp/news08/02/04l.html
とのこと。
貸与権が閉鎖に影響を及ぼしたのかどうかは分からない。
しかし、貸与権が書籍・雑誌に適用されたことによって、民間企業が社会貢献活動として図書館を設置し、無料で貸し出すことが、「貸与権」を侵害する行為であるとの政府答弁が1度は出されたことを、私は絶対に忘れない。
改めて、書籍・雑誌への貸与権適用はすべきではなかった、強く思う。
そしてこれまで、子ども図書館の活動を続けてきたイトーヨーカドーを、その運営に携わってきた人々を称えたい。