権利の制限

文化審議会著作権分科会法制問題小委員会「審議の経過(案)」では、私的録音・録画制度についてもふれられていますが、まず最初に述べられているのは、権利制限についての見直しです。
特許審査、薬事行政、図書館関係、障害者福祉、学校教育関係の権利制限の見直しについて検討が行われていますが、その前に「基本的な考え方」が述べられています。
非常にすばらしい文章なので、ほぼ全文引用します。

 著作権制度は文化の発展に重要な役割を果たしているが,社会における他の価値や制度との調和の上に成り立っていることを忘れてはならない。著作者が正当な利益を不当に害される場合又は著作物の通常の利用を妨げない場合は別として,時代によって変転していく社会的必要性に応じて一定の場合に権利を制限されることは,著作権法がこれからも社会的認知を受けていくためには必要なことである。

 今回,「著作権法に関する今後の検討課題」のうち,「権利制限」を課題として第一に取り上げ,検討を行うこととしたのも,著作権は他の社会的要請との調和の中で存在しているという認識に立つゆえである。一方で,真に必要な著作権保護のための制度改正を行うとともに,他方で,著作物の公正で円滑な利用を促進することにより,知的財産立国を推進することが,著作権法に関する政策を考える上で非常に重要な課題となっている。

文化庁著作権課元課長の岡本薫氏は、権利制限をしばしば「土地収用法」に例え、例えば「教育関係者のためのインターネット時代の著作権 2003年版」(ISBN:4793701272)では

「権利制限」では、「人権」を部分的に「抑圧」するという重大なことを「例外的な場合」に限って行うものである

とし、

「公益を実現するための費用を個人に追わせている」
(ともに前掲書p.90)

のように、「権利制限」自体を否定的なニュアンスで述べているが、*1法制問題小委員会では「権利制限」の意義を肯定的にとらえている。
この点について、私は法制問題小委員会のスタンスを全面的に支持します。

*1:岡本氏は前掲書の全面改訂版である誰でも分かる著作権―情報化・コンテンツ・教育関係者のためにを出しており、権利制限についての記述は若干修正されているが、著作権課長時代の見解として「教育関係者のためのインターネット時代の著作権 2003年版」(ISBN:4793701272)での記述を取り上げた