権利制限の個別規定は必ずしも厳格解釈する必要は無い

いわゆる日本版フェアユースについて盛り込まれた「文化審議会著作権分科会法制問題小委員会「権利制限の一般規定に関する中間まとめ」」についての意見募集が行われている。

文化庁 | 文化審議会著作権分科会法制問題小委員会「権利制限の一般規定に関する中間まとめ」に関する意見募集の実施について
http://www.bunka.go.jp/oshirase_koubo_saiyou/2010/tyosakuken_iinkai_ikenbosyu.html

ということで、中間まとめを読んでみた。
これまでもワーキングチームの報告や昨年度の法制小委員会の審議の経過を読んでいたので、大体の流れはつかんでいたけど、やっぱり日本版フェアユースはずいぶん骨抜きにされた印象が強い。
遡って考えてみると、ワーキングチーム設置が決まった、平成21年第6回の小委員会において、資料5として「権利制限の一般規定に関する検討事項について(案)」が事務局である文化庁より出されている。この検討事項が、その後の検討の枠組みを決めてしまった。この検討事項の範囲内でしかフェアユースの議論ができなくなってしまった。それが結果として骨抜きを招いたのだと思う。
この検討事項を読んだだけでは、自分もそこまでのことを理解することができなかったのだから、今更嘆いても仕方が無いのだけど、やられた感が大きい。


とは言え、この中間まとめの中にも収穫があることにも今更ながらに気づいた。
この中間まとめは、日本版フェアユースがなくてもそれほど不都合は生じていない、ということを強調している様に私には思えるのだが、それが逆に現状の枠内でフェアユース的な考え方を追認することに繋がっているところがある。
それは個別制限規定の解釈論のところだ。
まず、問題の所在のところで次のように書かれている(PDFの6頁め。ノンブルでは4頁)。

我が国の現行著作権法は、個別権利制限規定を限定列挙する方式を採用していることから、個別権利制限規定のいずれにも該当しない著作物の利用は、たとえそれが権利者の利益を不当に害しないものであったとしても、形式的には権利侵害に該当してしまい、さらには、個別権利制限規定は厳格に解釈すべきであると一般に理解されているため、個別権利制限規定の解釈等による解決には限界があり、その結果として、著作物の円滑な利用が妨げられているとの指摘が、権利制限の一般規定の導入を求める立場からなされている。
(強調:引用者)

この問題の所在に対し、

我が国の裁判実務においては、既存の個別権利制限規定を拡大解釈することにより著作権侵害を否定した裁判例や、権利濫用など民法の一般規定を活用することにより著作権侵害を否定した裁判例、あるいは権利者の黙示的な許諾を推認することにより著作権侵害を否定した裁判例が複数存在し、
(中略)
かかる事実のみをもって個別権利制限規定が常に厳格解釈されているものと評価することは必ずしもできないと考えられる。さらには、近時の学説では、個別権利制限規定を常に厳格に解釈すべきではなく、合理的に解釈運用すべきとする見解も多いところである。

と述べている。(PDFの6-7頁、ノンブルでは4-5頁。)
この記述は、権利制限の個別規定を柔軟に解釈している裁判例もあるのだから、日本版フェアユースはそれほど必要な無いのではないか、というものではあるが、逆に、権利制限の個別規定を必ずしも厳格的に解釈すべきではない、と言う現状を追認していると見ることもできる。
つまり、法制問題小委員会は、権利制限の個別規定を必ずしも厳格に解釈する必要は無い、ということをこの部分では述べていることになっているのではないだろうか。
この記述は、もしかしたら、この中間まとめの一番重要な部分かもしれない。

このような箇所が他にも無いか、もう一度精読してみるつもりだ。