図書館と貸与権についての判例

見逃していたけど、図書館での貸出が貸与権侵害になるかについて争われた裁判の判決があったようだ。
判決文はこちら。

平成22年2月26日判決言渡同日原本領収裁判所書記官
平成20年(ワ)第32593号損害賠償等請求事件(PDF)
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20100408163542.pdf

裁判の概要と解説については、次の2つのブログのエントリーをご参照ください。

韓国書籍を図書館で貸し出すことは - 著作権で稼ぐ - Yahoo!ブログ
http://blogs.yahoo.co.jp/gut_expert/59457333.html

駒沢公園行政書士事務所日記:「北朝鮮の極秘文書」図書館蔵本事件−著作権 損害賠償等請求事件判決(知的財産裁判例集)−
http://ootsuka.livedoor.biz/archives/52030625.html


この裁判は、日本で出版された本を著作権者に無許諾で韓国語に翻訳されて韓国で出版された本(いわゆる海賊版)について、日本国内の大学図書館が所蔵しており、閲覧・謄写(=複写?)・貸与させていたことを、貸与権侵害であるとして訴えた裁判だ。

海賊版の本という特殊なケースではあるが、図書館での貸出について、貸与権で争われた貴重な裁判だと思う。

判決は貸与権侵害を否定している。

一つ目の理由は、各図書館が書籍・雑誌に貸与権が適用される前から貸与を目的として所蔵していたこと。
2004年の法改正で2005年1月1日より書籍・雑誌に貸与権が適用されたが、改正法の公布の翌々月の初日(2004年8月1日?)以前から貸与を目的として所有していた書籍・雑誌には、2004年1月1日以降も貸与権は適用されないという附則(平成16年改正法附則4条)があるが、各図書館は、それ以前より所蔵していたとのこと。
次にこの附則が適用されるのは、いわゆる貸本業に限定されないこと。
そして、いわゆる海賊版の書籍であっても、上記の規定は及ぶとのこと。


これらの理由から貸与権侵害を否定している。

さらに、閲覧・謄写については、貸与に該当しない旨の判断をしている。
この部分は非常に重要だ。

原告は,被告らによる本件韓国語著作物の閲覧,謄写も貸与権の侵害になると主張する。しかし,著作権法の「貸与」とは,使用の権原を取得させる行為をいうが(著作権法2条8項),図書館等において書籍を利用者に閲覧,謄写させる行為は利用者に使用権原を取得させるものではないから,「貸与」に当たるということはできず,原告の上記主張は誤りというほかない。
(強調:引用者)

http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20100408163542.pdf

書籍・雑誌への貸与権適用について、文化審議会著作権分科会においても、マンガ喫茶が行っていることは貸与ではないから貸与権が及ぶものではないということを前提に検討がなされていたにもかかわらず、マンガ喫茶で利用者にマンガを有料で読ませる行為に貸与権が及ぶと主張する作花文夫氏ら著作権法の専門家が出てきている。
下級審ではあるが、このような判決が出たことは、やはりマンガ喫茶で利用者にマンガを有料で読ませる行為が貸与にはあたらないという、至極当然の判断がなされたのだと思う。


ただ、今回の判決で1つ気になる点がある。
それは著作権法第38条5項の非営利・無料の貸与には貸与権は及ばない、という点についての言及が無いこと。
大学図書館での貸与は非営利・無料の貸与であるという文化庁の見解がある(http://d.hatena.ne.jp/copyright/20090912/p1 http://d.hatena.ne.jp/copyright/20040525/p1 など)が、本判決では第38条5項への言及がない。
つまり、まだ裁判所は、大学図書館での貸出が非営利・無料の貸与であると言う判断は示していないことになる。
この点だけが、懸念材料だ。