クラウドサーバーは「自動複製機器」か

2月23日付けで日経に次のような記事が出ていた。

著作権問題「発生せず」 文化庁が報告書  :日本経済新聞
http://www.nikkei.com/access/article/g=9695999693819481E0E0E2E0978DE0E0E2E0E0E2E3E09C9CEAE2E2E2

この記事に掲載されている「報告書」は、1月12日に開催された文化審議会著作権分科会法制問題小委員会の配付資料の資料4「クラウドコンピューティング著作権に関する調査研究報告書」だと思われる。

文化庁 | 著作権 | 著作権制度に関する情報 | 文化審議会著作権分科会 | 法制問題小委員会 | 文化審議会著作権分科会法制問題小委員会(第6回)議事録
http://www.bunka.go.jp/chosakuken/singikai/housei/h23_shiho_06/gijiyoshi.html

資料4 クラウドコンピューティング著作権に関する調査研究報告書(PDF形式(664KB))
http://www.bunka.go.jp/chosakuken/singikai/housei/h23_shiho_06/pdf/shiryo_4.pdf

気になったので、遅ればせながら、この報告書を読んでみた。

日経の記事に

クラウドに「固有の課題はない」と結論づけた。

著作権問題「発生せず」 文化庁が報告書 :日本経済新聞

とあったが、報告書でも同様の記述がある。その箇所を少し長く引用してみる。

また、「クラウドサービス」と著作権法との関係については、大きく?著作物の利用行為主体との関係、?「私的使用」(30条1項)との関係、?著作権法上の「公衆」概念との関係を中心に検討したところであるが、いずれの課題も従来から指摘されている課題であり、「クラウドサービス」がこうした課題をより顕在化させるという側面があるとしても、クラウドサービス」固有の課題というものではないことが確認された。
このため、「クラウドサービス」の進展を理由に、直ちに「クラウドサービス」固有の問題として著作権法の改正が必要であるとは認められないものと考える。
クラウドコンピューティング著作権に関する調査研究報告書. 31p. 強調:引用者)

http://www.bunka.go.jp/chosakuken/singikai/housei/h23_shiho_06/pdf/shiryo_4.pdf

つまり、クラウドコンピューティングには従来から指摘されている課題があり、それが顕在化されているということだ。
従来から指摘されている課題がより顕在化しているにもかかわらず、法改正が必要であるとは認められない、と結論づけている点には疑問を感じるが、続く部分で

それらの課題について検討を進めることは必要であり、現に文化審議会著作権分科会法制問題小委員会において、30条を中心に課題の整理が行われているところである。

としているので、全く法改正を行わないつもりでは無いのだろう。
法制問題小委員会での課題の整理については、まだフォローできていないので、機会があれば改めて確認してみたい。


さて、本報告書を一読してみて、一番おどろいたのは、クラウドサーバーを「公衆用設置自動複製機器」と見なす見解があると言うことだ。
その箇所は、著作権法上の課題についての同報告書の13〜14頁。

(3)複製行為の主体がユーザーであり、当該複製が「私的使用」を目的とするものと評価される場合の、公衆用設置自動複製機器(30条1項1号)との関係

複製行為の主体がユーザーであり、さらに当該複製が「私的使用」を目的とするものと評価される場合、コンテンツの複製が行われるクラウド上のサーバーが、30条1項1号の「公衆の使用に供することを目的として設置されている自動複製機器」(いわゆる公衆用設置自動複製機器)に該当するかどうかが問題となる。仮にサーバーが公衆用設置自動複製機器に該当するとすれば、私的使用を目的とする複製であっても、30条1項柱書に規定される権利制限は適用されず、(他の権利制限規定が適用されない限り)著作権侵害に該当することになる。

補足すると、著作権法30条は私的使用のための複製についての権利制限規定であり、私的使用の範囲には複製権は及ばないとしているが、その例外として「公衆用設置自動複製機器」を用いた複製は、私的使用のための複製であっても、複製権が及ぶので、権利者の許諾を得ずに行うことができないとしているのが30条1項1号だ。
つまり、クラウドサーバーが「公衆用設置自動複製機器」と見なされれば、著作権者の許諾無しに、クラウドサーバーに著作物を保存(複製)できないということになる。


正直、自分は「自動複製機器」の定義について、きちんと確認してこなかったので足下をすくわれた感がある。
改めて著作権法第30条1項1号の「自動複製機器」の定義を見てみると、

複製の機能を有し、これに関する装置の全部又は主要な部分が自動化されている機器をいう。

とある。
確かに、この定義の文言だけで判断すれば、クラウドサーバーが「自動複製機器」と見なされる可能性はあるかもしれない。
本報告書では、関係者からのヒアリングの意見を掲載しているが、この「自動複製機器」と見なすか否かについては、

30条1項1号の文言上、クラウド上のサーバーは公衆用自動複製機器に該当すると解釈せざるを得ない、という意見があった一方で、各ユーザーがコンテンツをアップロードするサーバー内の一定の領域が、パスワードの設定等によって特定のユーザーのみがアクセスできる状態となっているのであれば、公衆用設置自動複製機器に該当しないと解釈できるのではないかとの意見や、もともと同号が想定していたものは、レンタル店等の店頭に設置される高速ダビング機なのであって、これと性質が異なるクラウド上のサーバーは公衆用設置自動複製機器には該当しないと解すべきであるとの意見もあった。
(報告書 20頁)

と両論を併記している。
私としては、クラウドサーバーが「自動複製機器」では無いとの結論を祈りたい。
もしそうでない結論がだされ、クラウドサーバーに著作物をアップする行為が、あくまでそれを行った個人だけがアクセス出来るようにした場合でも、著作権侵害になってしまうとするのであれば、個人がクラウドサービスの利便性を享受することが大きく制限されてしまうだろう。
それは、著作権法の目的である「文化の発展」につながるのだろうか。
私はそうは思わない。

新しい技術や新しいサービスは次から次へと現れてきている中で、その利便性をつぶすことが、著作権法の目的では決して無いと私は思う。