待望の1冊が出た。
- 作者: 田中辰雄,林紘一郎
- 出版社/メーカー: 勁草書房
- 発売日: 2008/08/11
- メディア: 単行本
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http://www.populus.est.co.jp/asp/booksearch/detail.asp?isbn=ISBN978-4-326-50308-7
はじめに
序 章 延長問題の客観的な議論のために…………田中辰雄・林紘一郎
1.著作権問題の難解さ
2.バランス論の集合体としての著作権
3.バランス評価の具体例
4.延長賛成と反対の論拠
5.延長問題への選択肢
6.本書の構成
7.著作権延長問題の議論を実りあるものにするために第?部 著作物の寿命と再創造
第1章 本の滅び方:保護期間中に書籍が消えてゆく過程と仕組み
…………………………………………………………………………丹治吉順
1.はじめに
2.調査方法の概要
3.調査――没後の出版数の減少と寡占の進行
4.保護期間が本を滅ぼすメカニズム
補論 1957〜66年物故者の著作発行状況調査の詳細第2章 本のライフサイクルを考える………………………………田中辰雄
1.はじめに
2.著作者没後の収益の過去の研究事例
3.データとバイアスの評価
4.書籍の保護期間延長による収益増加の推定
5.著作者の没後に本が出版される確率
6.おわりに第3章 シャーロック・ホームズから考える再創造………………太下義之
1.はじめに
2.シャーロック・ホームズのパロディ等に関する分析
3.シャーロック・ホームズの著作権
4.シャーロック・ホームズが導く3つの仮説
5.ウラノスの災い
6.再創造を通じて愛され続ける夏目漱石
7.おわりに第4章 デジタル環境と再創造……………………………………中泉拓也
1.はじめに
2.モ デ ル
3.ホールドアップ問題のもとでの創作者の利得
4.ホールドアップ問題がもたらす検索行動の過小性
5.外部機会の増加によるホールドアップ問題の軽減
6.おわりに第?部 保護期間と保護方式
第5章 保護期間延長は社会厚生を高めたか:アメリカの場合
…………………………………ポール・J・ヒールド/今川哲也・宮川大介訳
1.はじめに
2.方 法 論
3.パブリック・ドメインと著作権保護のあるベストセラー書籍の入手可能性と価格の比較
4.最も耐久的に人気を有する書籍の入手可能性と価格に関する 比較(1913〜32年)
5.混雑外部性
6.おわりに第6章 保護期間延長は映画制作を増やしたか……田中辰雄・中 裕樹
1.保護期間延長の創作誘因効果の実証例
2.利用する映画データベース
3.これまでの研究との整合性
4.推定結果は頑健か
5.おわりに第7章 EU・アメリカはなぜ保護期間を延長したか…………酒井麻千子
1.はじめに
2.EUの動向
3.アメリカ合衆国の動向
4.おわりに第8章 デジタルはベルヌを超える:無方式から自己登録へ
………………………………………………………………………林紘一郎
1.はじめに
2.著作権と無方式主義、保護される情報
3.情報資産の保護方式と登録制度
4.デジタル化による脆弱性の露呈
5.ⓓマークと自己登録制度
6.新しい任意登録制度と検討課題
7.登録と権利保護期間の関係終 章 保護期間延長問題の経緯と本質……………林紘一郎・福井健策
1.はじめに
2.保護期間が有限である理由
3.所有権と著作権の関係、デジタル化の影響
4.保護期間が著者の死後も続く理由
5.保護期間の最適設計
6.日本における保護期間延長問題の経過
7.「延長問題を考えるフォーラム」における議論
8.今後の課題と若干の提言索 引
とりあえず一読したが、本書はタイトルとサブタイトルにあるとおり、著作権保護期間の延長が文化を振興するか否かについての論考を集めたものだ。
執筆者の結論はいずれも、保護期間の延長が文化を振興する、ということには懐疑的なものだった。
目次を見れば分かると思うが、本書の内容のほとんどは、著作権保護期間の延長問題を考えるフォーラム*1が開催した、公開トークイベントVol.5 シンポジウム「著作権保護期間延長の経済効果 − 事実が語るもの」で発表されたものを論文にまとめたものであるが、どの論文も基本的には著作権保護期間の延長の可否について、実証的な検証を行ったものだ。
実証的な検証を行っているので、各論文のスタンスに疑問を抱いた場合、基本的にはその結論の検証を行えるはずである。
例えば第6章は、著作権保護期間の延長が映画の制作本数を増加させる、という先行研究の検証を行ったもので、結論は先行研究の結果を否定したものである。
それは、先行研究が用いたデータ、検討方法を明記していたからこそ、検証ができた。
本書の他の論文も、基本的には用いたデータ、検討方法を明記しているものが大半を占めている。
本書の各論文に対して異論があれば、同じ方法で検証をすることができるはずだ。
そういった検証を重ねることで、著作権保護期間を延長すべきか否かの結論は出てくるだろう。
本書は、延長慎重派の人たちによるものだが、議論のベースとなるデータを数多く提示している。
今度は、延長派の人たちが、その検証を行ったり、新たな議論のベースとなるデータを提示する番だろう。*2
8月8日に開催された著作権分科会 過去の著作物等の保護と利用に関する小委員会の2008年度第4回を傍聴した。
当日は、3名の研究者が経済学の立場から保護期間の在り方についての発表があり、*3それに対する質疑が行われたのだが、創作者の立場の委員からは、その発表に対する質疑と言うより、谷崎の著作権が切れる、と言うような個別なケースを持ち出したり、「経済学的には延長しないほうが良いのは分かっているが、では何故欧米は延長したのか*4、欧米は著作者を大事に思っているからじゃないのか」と言った心情に訴えるだけのの発言が繰り返されていた。
次の小委員会までに、委員は全員本書を読んで、本書に書かれていることを理解して、その上で次の小委員会の議論がなされることを、切に望む。