全集と図書館

ハンセン病文学「後世に残して」 図書館購入も伸び悩み - asahi.com : 文化芸能
http://www.asahi.com/culture/update/1205/001.html

このような記事を読むと、複雑な気持ちになる。
ハンセン病文学については、私は語れるだけの知識はないが、「ハンセン病文学全集」が出版されることには意義があるのではないかと思うし、ある程度の規模の図書館では所蔵してもおかしくないのではと思う。
しかし、全国紙の記事としてこのような記事が紙面を飾ることについては、疑問が無いわけでもない。

穿った見方をすれば新聞の力を借りて図書館に圧力をかけているように見えてしまう。
確かに「ハンセン病文学全集」は価値の高い出版企画だと思うが、他に価値の高い出版企画はもたくさんあると思う。

記事中にはここ数年間の作家達による図書館バッシングの尻馬に乗っているような記述も見られる。

ある図書館の関係者は「小さな図書館の予算は限られている。『ベストセラーを読みたい』という市民の要望に応えるのも図書館の役目なのです」と説明する。

という箇所などは、わざわざこの記事の中で取り上げる必要があるのだろうか。図書館はベストセラーを大量購入しているという偏見を助長するだけに過ぎないではないだろうか。

また、次の部分も非常に気になる。

だが、皓星社が昨夏、東京都内の図書館のうち292館を調べたところ、一巻でも確認できたのは23館だけだった。今のところ各巻1000冊ほどの売れ行きだ。

292館中23館しか所蔵していないといると、図書館で全然所蔵していないように思えるが、この数字にはトリックがある。
きちんと確認していないが、292館というのは都内の公共図書館で一つの自治体の中にある図書館の分館を全部含めた数だと思う。都立図書館のサイトで都内の公立図書館の一覧を見ることができるが、きちんと数えていないが、だいたいそのくらいだろう。
よく、図書館批判を行う際に、「○○」というベストセラーは○○市では何十冊所蔵している、と言うことが言われるが、その際の所蔵数は、分館での所蔵数も含めた数である場合がほとんどである。
図書館批判を行う際にその時々によって母数を変えるのは、おかしいのではないだろうか?
特に「ハンセン病文学全集」のように、利用はあまり多く見込めないがが、所蔵しておく必要があるようなものは、一つの自治体の中で、1セット所蔵してあれば、後世に残す役割は図書館として果たしていると私は思います。

なお、東京都立図書館で都内の公共図書館の蔵書の横断検索ができるが、そこで調べたところ、24自治体で所蔵していたが、母数は45自治体で、半分以上は所蔵している。
さらにこの横断検索システムでは検索できない自治体も数自治体あるので、都内での所蔵状況はもう少し増えると思う。
そう見ると、都内での所蔵状況はそんなに悪くないというか、結構健闘しているほうではないでしょうか。

価値の高い出版企画が苦戦している状況については、何とかがんばってもらいたいと思うが、数字のマジックを使ったり、為にする図書館批判に乗じたりすることで、図書館に圧力をかけるような記事が出てしまうことには、疑問を感じます。