出版界と貸与権

みんなの図書館の10月号(No.330)に「著作権法と図書館」という特集が掲載されている。
特集の内容は以下の通り。

編集部. 特集にあたって
南亮一. 著作権法の最近の改正と著作権をめぐる動き
小坂薫. 障害者サービスと著作権
清田義昭. 出版業界と貸与権問題
牧野桂子. おはなし会と著作権

南さんの論文は、最近の動向をわかりやすくまとめているので、必読だが、今回は清田氏の論文を取り上げる。

清田義昭. 出版業界と貸与権問題(特集 著作権法と図書館サービス).
みんなの図書館. No.30, p.29-34, (2004)

清田氏は出版ニュース社の社長で、同社では「著作権が明解になる10章」などを出版している。

著作権が明解になる10章

著作権が明解になる10章

明解になる著作権201答

明解になる著作権201答

しかし、この論文の最初の方でいきなり次の様な箇所がある。

 さて、その著作権だが、紙の出版物にはながい経験と実績を出版界はもっているが、インターネット時代になって、Web上の著作権の扱いでさまざまな問題がおこっている。無断引用、改ざん、盗用、盗作、なりすましなどである。

まずは、いつもの指摘だが、「無断引用」という言葉は、著作権法上はおかしい。「引用」は無断で行って何等問題はない。
清田氏には、是非自社で出した本を読んで著作権を勉強して欲しい。
また、盗用などの問題はインターネット上より、むしろ紙の出版ので起きていると思う。新聞などでもしばしば記事になっているし、著名な作家も盗用などで著書が回収されたケースも起きている。「紙の出版物にはながい経験と実績を出版界はもっている」と言い切るにしては、盗用は頻発しているように思うのだが。

その後の部分で、貸与権の成立までの経緯を各団体の動きを中心に清田氏はまとめている。私には特に新たな発見は無かったが、分かり易くまとまっていると思う。
さて、貸与権に関わるところで私が注目したのは次の記述。

というのも、これ(引用者注:貸与権)については出版界では十分に議論がおこなわれたとはいえないからである。また、今後の運用においても問題が出てくる可能性がある。

まぁ、だいたい予想はしていたが、出版界で十分に議論されずに貸与権の要求がなされ、それが法律として成立してしまったことを、出版業界の人間が認めたことは、重要であろう。
本来なら、出版ニュースがその議論を喚起するような記事を掲載すべきでは無かっただろうか。