「夢の図書館」の著作権への対応

八王子に科学技術雑誌集めた「夢の図書館」 6月のグランドオープンに向け準備着々 - 八王子経済新聞
http://hachioji.keizai.biz/headline/2062/

この記事をブクマしたところ、twitterで次のような反応をいただいた。

自分も少し気になってはいたので、ちょっとだけ調べるために、この「夢の図書館」のサイトを見てみた。

夢の図書館 公式サイト 100 年分の技術雑誌を未来に伝える
http://www.gijyutu-shounen.co.jp/Library/index.html

このサイトの「利用方法」の所を見てみると、どのようなサービスを行って、どのように対応しているのかが分かった。

夢の図書館 利用方法
http://www.gijyutu-shounen.co.jp/Library/usage/index.html

著作権に関連しそうな所をピックアップすると、次の箇所がそれにあたる。

  • 雑誌の蔵書は貴重品ですので基本的に館内閲覧のみです。
  • 書籍に関しては1985年以降に出版された技術書籍で貸出可の書籍のみ貸出を行います。(往復送料が必要)
  • コピーサービスに関しては出版社が加盟する複写権管理団体から許可をいただいた雑誌を対象に行います。(有料・準備中)
  • 発行から50年以上経過した法人著作物で著作権が時効消滅している蔵書のコピーサービスを行います。(有料・準備中)
  • 会員の方にはコピー指示をオンラインで受付して宅配便でお送りする宅配コピーサービスを提供します。(有料・準備中)
夢の図書館 利用方法

「夢の図書館」の行うサービスと著作権の関係

「夢の図書館」が行うサービスで、著作権に関わりそうなものは、閲覧と貸出とコピー。
それについて、検討してみる。

閲覧サービス

まず、閲覧については、著作権は全く及ばないサービスなので、問題は無い。
展示権という支分権はあるけど、それが及ぶのは美術の著作物と未発行の写真の著作物の原作品に限られているので、雑誌や書籍には及ばない。
だから、閲覧させるサービスを行う上で著作権者の許諾は不要だ。

コピーサービス

一つ飛ばして、コピーについては、許可を得たものと著作権が消滅しているものに限定しているので、これも全く問題は無い。

貸出サービス

最後に貸出。
これには貸与権という支分権が及んでくる。
ただし、貸与権には権利制限規定があり、非営利かつ無料の貸与には、貸与権は及ばない。
公共図書館の貸出サービスも、図書館が行う貸出だから許諾無しで行えるのでは無く、非営利かつ無料の貸与だから許諾無しで行えるのだ。
貸出サービスを行う上で、「図書館」であるか否かは考慮する必要は無い。

では、この「夢の図書館」が行う貸出サービスが、非営利かつ無料の貸与に該当するのだろうか。
私は、このサイトの記述を読む限りにおいては該当すると判断する。

その判断基準は政府の見解に基づくものである。
その政府の見解とは次のもの。

衆議院議員川内博史君外一名提出今国会提出の著作権法の一部を改正する法律案に於ける暫定措置廃止後の法律の運用に関する質問に対する答弁書
http://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_shitsumon.nsf/html/shitsumon/b159096.htm

この答弁書では「無料」の判断となる「料金」ついて次のように述べている。

当該対価が、書籍又は雑誌の貸与に対する対価という性格を有するものではなく、これらの施設の一般的な運営費や維持費に充てるための利用料であると認められる場合には、著作権法(昭和四十五年法律第四十八号。以下「法」という。)第三十八条第四項に規定する「料金」に該当しないものと解される。

衆議院議員川内博史君外一名提出今国会提出の著作権法の一部を改正する法律案に於ける暫定措置廃止後の法律の運用に関する質問に対する答弁書

「夢の図書館」は会費制で、年会費の支払いが必要で、さらに閲覧には「1日利用券」が必要とのこと。
しかし、貸出サービスの利用には「往復送料が必要」と書かれているが、貸出サービスのための料金については記載されていない。
このことから考えると、「夢の図書館」の会費は「これらの施設の一般的な運営費や維持費に充てるための利用料」と認められる可能性が高いと私は考えます。

また「営利」についての政府見解は以下の通り。

法第三十八条第四項に規定する「営利」とは、業としてその貸与行為自体から直接的に利益を得る場合又はその貸与行為が間接的に何らかの形で貸与を行う者の利益に具体的に寄与するものと認められる場合をいうものと解される。

衆議院議員川内博史君外一名提出今国会提出の著作権法の一部を改正する法律案に於ける暫定措置廃止後の法律の運用に関する質問に対する答弁書

一番問題になるのはこの「営利」の解釈だろう。
「夢の図書館」の運営主体は株式会社技術少年出版。

夢の図書館 運営会社案内
http://www.gijyutu-shounen.co.jp/Library/company/index.html

この株式会社技術少年出版が、貸出サービス自体から直接的に利益を得ているとは見なされないとは思うが、間接的に何らかの形で、株式会社技術少年出版の利益に具体的に寄与すると認められるか否かは、慎重に検討する必要があると思う。
上記の頁に記載されている事業内容は、「夢の図書館」の運営に加え次のものが挙げられている。

夢の図書館 運営会社案内

「夢の図書館」が貸出サービスを行うことが、上記事業からの利益に「具体的に寄与」するのだろうか。
「具体的に寄与」すると判断されれば、「営利」目的と判断され、貸与権が及んでしまうが、「具体的に寄与」していないと判断されれば「営利」を目的としているとは判断されず、貸与権は及ばない。

この判断は相当むずかしいので、断定的なことは言えない。
でも、貸出対象が「1985年以降に出版された技術書籍」に限定されていることを考慮すると、私は、利益に「具体的に寄与」しているとまでは言えないのではないかと思います。
そして、そう判断されることを望んでいます。