「知的財産推進計画2010骨子」を読んで

年度末〜新年度にかけていろいろとあったので、文化審議会などの動向を全然フォローできないでいた。
法制問題小委員会も基本問題小委員会も開催されているが、議事録どころか配布資料にすら目を通すことができないでいる。
もうそろそろ何とかしないとと思っていたところ、「無名の一知財政策ウォッチャーの独言」で知財推進計画2010骨子がだされたとのことのエントリーが出ていた。

第221回:知財本部で了承された知的財産推進計画2010骨子案: 無名の一知財政策ウォッチャーの独言
http://fr-toen.cocolog-nifty.com/blog/2010/04/post-6661.html

結構詳細に知財推進計画骨子について解説している。私も気になる点があったので、この骨子を読んでみた。

知的財産推進計画2010骨子(PDF)
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/titeki2/2010kossi.pdf

本年の知財推進計画は次の3点が3本柱とされている。

(1)特定戦略分野における国際標準の獲得を通じた競争力強化
(2)コンテンツ強化を核とした成長戦略の推進
(3)知的財産の産業横断的な強化策

(1)の「特定戦略分野における国際標準の獲得を通じた競争力強化」については、正直よく分からないし、自分の関心分野とも重ならないので、今回は省略する。

(2)コンテンツ強化を核とした成長戦略の推進

まず、「重点政策」を見てみたが、やはりいくつか気になる。

○ 地上波日本ドラマ禁止、ゲーム機販売規制といった、諸外国におけるコンテンツ規制の撤廃を強く働きかけ、実現する。(中期)

コンテンツ規制については、「コンテンツ強化」の観点からすると、諸外国よりも国内の動きの方が影響が大きいと思う。その点をどう考えているのだろうか?

○ デジタル化・ネットワーク化に対応した著作権制度上の課題(保護期間、補償金制度の在り方を含む)について総合的な検討を行い、検討の結果、措置を講じることが可能なものから順次実施しつつ、2012 年までに結論を得る。(中期)

保護期間について、また蒸し返されていることには注意したい。延長をするだけの積極的な理由が見いだせないという結論を出しても、こういう風に計画に盛り込まれてしまう。
補償金制度についてもそうだ。
このような消耗戦に持ち込まれてしまうと、反対する側としては厳しい。

○ インターネット上の著作権侵害コンテンツ対策のため、プロバイダによる侵害対策措置の実施を促す仕組みの導入やアクセスコントロール回避規制の強化を内容とする改革案を2010 年度中に策定する。(短期)

いわゆるスリーストライク法みたいなものを念頭においているのだろうか?
これについても注意したい。


さらに「詳細施策」の中にも気になる事項がある。

具体的な取組 概要 担当府省
9 教育コンテンツのデジタル化(中期) 教育コンテンツのデジタル化(デジタル教科書及びその他教材)を進める。 文部科学省 総務省

項目として気になるが、具体的な内容が分からないので何とも言えない。

具体的な取組 概要 担当府省
19 二次創作の権利処理ルールの明確化(中期) 二次創作(パロディ含む)やネット上の共同創作の権利処理ルールを明確化する。 文部科学省 経済産業省 総務省
20 ネット上のコンテンツの部分的引用やネット放送のルール形成(短期) インターネット上におけるコンテンツの部分的引用やネット上の放送に関し、民間における関係者間のルール形成が促進されるよう支援する。 文部科学省

この2点はフェアユースとの関連があると思うが、今の法制問題小委員会での議論を見ると、骨抜きもしくは逆に規制を強化する方向の結論が出されかねないと懸念する。

具体的な取組 概要 担当府省
21 ポップカルチャーアーカイブ化及びそのネットワーク化の推進(短期・中期) 日本のポップカルチャーに関する様々なアーカイブのネットワーク化や、映像のアーカイブ化への支援を通じ、創造基盤を整備する。 文部科学省

いわゆる「アニメの殿堂」の様に、予算獲得ありき、建物ありきで、中身の無いようなものにはして欲しくはない。

具体的な取組 概要 担当府省
25 書籍の電子配信の促進(短期・中期) 書籍の電子配信を促進するに当たって、知の拡大再生産の確保に留意しつつ、非商業分野において国立国会図書館によるデジタル・アーカイブ化の促進や電子納本に向けた環境整備を図るとともに、商業分野において民間における標準規格の策定、権利処理ルールやビジネスモデル形成の取組を支援する。 総務省 文部科学省 経済産業省
30 プラットフォーム競争の促進(中期) 重要分野(例えば書籍)に関し、ユーザーの利便性確保の観点から、官民一体となって、排他的でないマルチプラットフォーム戦略を策定し、プラットフォーム間の競争を促す。 経済産業省 文部科学省

電子書籍については、私はポット出版ディスカヴァー21の取り組みを支持したい。これらの取り組みを阻害するようなことだけはしないで欲しいと思っている。それ以外は特に期待していない。


他にもいくつかきな臭い項目が上げられているので、これら以外の詳細施策にも注意したい。

(3)知的財産の産業横断的な強化策

この項目では、特許関連の事項が多http://d.hatena.ne.jp/copyright/editい。
自分の仕事的には関連するかもしれないが、エンドユーザーを直接規制する事項は特許関連ではあまり無いと思う。
「重点施策」の中で注目したいのはACTA関連。

○ 模倣品・海賊版による被害を減少すべく、2010 年中に模倣品・海賊版拡散防止条約ACTA)の交渉を妥結し、締結後に加盟国を拡大するとともに、侵害発生国・地域の政府に対し、模倣品・海賊版対策の強化を働きかけ、世界大に保護の輪を広げる。(短期・中期)

ACTAについては、自分もあまりフォローできていないが、気になるところである。


「詳細施策」の中では、これに注目したい。

具体的な取組 概要 担当府省
17 公的資金による研究成果のオープンアクセス確保(短期) 公的資金による研究成果(論文及び科学データ)について、原則としてオープンアクセスを確保する。 文部科学省 厚生労働省 農林水産省 経済産業省

この公的資金による研究成果のオープンアクセス化は早急に実現して欲しい。
J-STAGEというプラットフォームが既にあるのだから、そんなに難しいことではないだろう。
一日も早くオープンアクセス化を実現して欲しいと思う。



知財推進計画は、例年パブリックコメントが行われているので、今年も行われることが予想される。
その時にはこれらについて、意見を出したいと思う。

なお、この推進計画骨子について検討を行った3月30日の知的財産戦略本部会合において、中山先生が次の発言をされている。

○中山本部員
 今回の骨子案の二本柱のうちの一つがコンテンツだと思いますけれども、コンテンツは資源が少ない我が国の有力な産業になり得ると思います。わが国が強いと言われているアニメや漫画も足腰が弱り、このままだと韓国や中国に負けそうです。そこで、コンテンツを振興させなければいけないのですけれども、振興策はいろいろ必要ですが、法的な観点からいいますと、どうも著作権法がある意味では規制法になっている面もあるわけです。著作権法というのは著作者、創作者をエンカレッジするのが目的ですけれども、今ではそれと同時に流通、利用、その方面も促進しなければいけない。特に流通を促進するという観点から著作権法というものを見直していただきたいと思っております。
 以上でございます。

知財戦略本部にはこの中山先生の発言を重く受けとめて欲しいと思う。