貸与権の報道のどこが問題か

6月4日付けの「新聞サイトの記事の検証 その2」(id:copyright:20040604#p1)について、id:dokushaさんの磁石と重石の発見で「情報を評価する時にはソースに当たりましょう」(id:dokusha:20040608#p2)と指摘されました。
私は、貸与権の問題については、昨年末から取り上げてきましたし、基本的な資料にはあたってきたつもりだったので、ちょっとショックでしたが、id:dokushaさんにそのような印象を与えたとしたなら、私の書き方にもそのような印象を与えるところがあったのでしょう。
ですので、改めて貸与権についての報道のどこが問題だったのかを述べさせていただきます。
その前にid:dokushaさんの以下の部分に少々反論というか、コメントを。

しかし「附則第四条の二」(書籍等の貸与についての経過措置)で書籍等(つまり雑誌も)については「当分の間(排他的な貸与権は)適用しない」という事になっていて、今回の改正(改悪)で書籍等に対する貸与権をいよいよ有効にしますよと(つまり、「当分」は過ぎたよと)言っているんだろう。

この件に関しては5大紙は誤報をやらかしてはいないように思える*2。

私は附則第四条の二が廃止されることについては、当然確認しております。またそのことを新聞が報道したことも認めています。しかし、その事実を新聞各社がどのように伝えたかを問題にしています。
そして、その伝えた内容が、事実とは大きくかけ離れているので、「誤っている」と書きました。

私が取り上げた新聞各社の報道は以下のものです。

http://www.asahi.com/national/update/0603/030.html
http://www.mainichi-msn.co.jp/today/news/20040604k0000m040033000c.html
http://www.nikkei.co.jp/news/shakai/20040603AT1G0300103062004.html
http://www.sankei.co.jp/news/040603/bun061.htm
http://www.yomiuri.co.jp/culture/news/20040603ia23.htm

なお、MSN-Mainichi Interactiveの記事にアクセスしてみたところ、私が取り上げた文章がありませんでした。私の勘違いだったのか、私が取り上げた後で文章が変わったのかはわかりません。

MSN-Mainichi Interactiveを除く朝日、日経、産経、読売では、表現に若干の違いがあるものの、レンタル店・貸本業が著作権者に対して著作権料の支払いの義務化、もしくは著作権者がレンタルに対して著作権料を請求できる、としています。(個々の報道の仕方は、上記URLをご覧下さい)
これは貸与権の条文に書かれていることとは違います。
id:dokushaさんも引用されていましたが、再度貸与権の条文を確認してみます。

貸与権
第二十六条の三 著作者は、その著作物(映画の著作物を除く。)をその複製物(映画の著作物において複製されている著作物にあつては、当該映画の著作物の複製物を除く。)の貸与により公衆に提供する権利を専有する。

貸与権とは上記の権利です。
権利者だけが貸与を行うことができる、権利者以外の者は貸与できない、それが貸与権です。
言い換えれば、著作権者以外の者は、著作権者から許諾を得ないかぎり、貸与は行えないのです。(なお、非営利・無料の場合は、著作権法第38条4項により、著作権者の権利は及びません)
権利者は許諾を与えることもできますし、拒否することもできます。また、許諾を与える際に、条件(著作権料の支払いなど)をつけることもできます。
これは新聞各紙が報じた、レンタル店・貸本業への著作権料の支払い義務化や、権利者が著作権料を請求できる権利、というものよりも、非常に強力な権利です。
この点において、私は新聞報道が間違っていると述べました。
私がこの報道を問題視するのには、理由があります。
それは音楽CDの輸入問題とも共通しています。
当初、環流防止措置とは日本の音楽CDのアジア版(正式ライセンス版)が日本に環流してくることを防ぐ措置だ、と文化庁は説明し、新聞各紙もそのように報じていました。ところが条文を検証してみると、アジア版の環流防止だけではなく、洋盤の並行輸入も禁止できると言うことが判明しました。
そのため反対運動が盛り上がった訳です。
貸与権の報道も同じです。
レンタルコミック店・貸本業だけが対象になるように報じられていますし、中にはコミックだけに限られるような報道も見受けられます。しかし、実際の条文を検証してみると、すべての書籍・雑誌が対象で、非営利・無料の場合を除くすべての貸与が権利者の許諾なしには行えなくなるのです。
新聞報道を読むだけではこのようなことまではわかりません。
id:dokushaさんがおっしゃるように「情報を評価する時にはソースに当たりましょう。」という意見には大賛成です。
私はそうしてきたつもりですし、今後もそうしていくつもりです。