元気のある出版社

出版をめぐる冒険―利益を生みだす「仕掛け」と「しくみ」全解剖

出版をめぐる冒険―利益を生みだす「仕掛け」と「しくみ」全解剖

出版不況だ、と嘆いている人にはぜひこの本を読んで欲しい。
そんな中でも好調な業績を上げている出版社を取り上げ、その取り組みの中から「出版再生」のヒントがきっとつかめるだろう。
何しろ、元気な出版社の話だから、読んでいる方も元気になってくる。

先日文庫版で再読した佐野眞一氏の「誰が「本」を殺すのか」は読み物としては、面白く読ませる力を持っているが、所詮は、旧来の読書家による現状への愚痴で終わっているようにしか私には思えない。読んでも元気は出てこない。

例えば、ダイソーの取り上げ方に本書「出版をめぐる冒険」と「本コロ」のスタンスの違いがよく表れている。

「本コロ」検死編では、ダイソー文学シリーズが「青空文庫」のデータを使っていながら裏表紙に「本書の無断複写、複製、転載を禁じます」と書いてあることを、「盗っ人猛々しい」と一刀両断し、さらに

しかし、ダイソー「本」が零細書店の売り上げを奪っているとするなら、無償のわかちあいというその善意こそが、零細書店をじりじりと廃業に追い込んでいるともいえる。
新潮文庫版 下巻 p.344-345)

青空文庫までも批判している。

一方「出版をめぐる冒険」では、特に青空文庫のデータ利用については取り上げていないが、100円でいかにお客様に満足を与えるかに苦心している大創出版を肯定的に評価している。

ダイソーを非難するのと、その中から何らかのヒントをつかもうとするのと、どちらが出版界の為になるか。私は「出版をめぐる冒険」のスタンスの方だと思う。
(なお、ダイソー文学シリーズは、青空文庫のデータを使うだけでなく、注釈を加えたり年譜を付けたりしているので、その分に関しての著作権は新たに発生していると思う。佐野氏の「盗人猛々しい」という表現は、反発が先走りすぎているように私には思える)

なお、本書のエピローグに次のような一節があった。
戦後最大のベストセラーの「窓際のトットちゃん」を取り上げ、

初版2万部でスタートした『トットちゃん』は、2002年3月に1514冊が増刷されている。91刷目だ。累計部数は579万9396冊にもなった。これほどの歴史的な大ベストセラーであれば、いまでもたいていの図書館にはおいてあるはず。古書店に行けば100円ぐらいで買えてしまうだろう。それでも初版発行からふた昔が過ぎながら“新刊”を求める人びとがいることに、一過性では終わらない本の力を思い知らされてしまう。

という。
図書館や新古書店を敵視する声は出版社・作家などからよく聞こえてくるが、筆者のこの意見に私は大いに賛成する。図書館で借りられても、新古書店で安く買えても、それでも新刊書店で本を買う人は確実にいるのだ。出版界には、そのような人を増やすためにどうすればいいのかを考えて欲しい。

なお、長岡氏の出版時評も以前読んだが、これもよかった。併せて読んで欲しい。

出版時評ながおかの意見1994‐2002

出版時評ながおかの意見1994‐2002