貸与権はいつ権利になったのか

もう、呆れて何も言いたくないぐらい。
でも、言わずにはおれない。
著作権、特に貸与権についていい加減な話を広めないでくれ。

Ehimail - 愛媛のコミュニケートマガジン [エヒメール]
「対談 知事と話そう」・時間は夢を裏切らない
http://www.pref.ehime.jp/guide/ehimail/vol12/taidan.html

愛媛県知事松本零士氏との対談の中でこんなことを語っている。

知事 漫画・アニメというと著作権と深い関わりがあります。私は昭和46年に施行された著作権法に関わりましたが、当時は貸与権がまだ一般的ではなく、貸本業も零細でしたから、漫画やアニメには当分適用しないとしましたが、それが今、漫画家の権利を侵害していて、胸が痛みます。
(強調:引用者)

現行著作権法が制定されたのは昭和46年だったが、当時は著作権の中に「貸与権」は無かった。
貸与権については、著作権法第二十六条の三で定められているが、この条項は昭和59年の法改正で追加されたもので、貸しレコード店の出現によって加えられた条項だ。
だから、昭和46年当時には一般的であるどころか、そもそも「貸与権」という権利は無かったのだ。
さらに言うと、貸与権が昭和59年の法改正で設立されたときに、附則で書籍・雑誌には貸与権は適用されないとされ、それが平成16年の法改正でその附則が削除されて、書籍・雑誌にも貸与権が適用されることになった。
「漫画」だから貸与権が適用されなかった訳ではなくて、「書籍・雑誌」だから貸与権が適用されなかったのだ。
また、アニメについても、映画の著作物には「貸与権」は及ばないが、代わりに貸与権と譲渡権を合わせた権利である「頒布権」が映画の著作物にはある。だから「アニメ」に貸与権が「当分適用しない」とされたというのは、誤りだ。


貸与権について、こんないい加減な話を広められるのは困る。
しかも、その話をしている愛媛県知事加戸守行氏なのだ。

加戸守行 - Wikipedia
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%8A%A0%E6%88%B8%E5%AE%88%E8%A1%8C

加戸氏は元文化庁著作権課長で、昭和46年施行の現行著作権法の草稿執筆者でもある。
加戸氏による「著作権法逐条講義」は何度も改訂され、現在でも著作権法を研究する上には重要な文献とされている。
その加戸氏がこんないい加減な話を広めているというのは、非常に恐ろしい。

著作権法逐条講義

著作権法逐条講義