県立図書館と市町村立図書館

サイゾー昼間たかし氏による神奈川県立図書館・県立川崎図書館機能縮小・廃止問題についての記事が掲載された。

「図書館は貸し出しだけがサービスじゃない」神奈川県立図書館廃止問題から見えた、都道府県立図書館の役割(1/2) - 日刊サイゾー
http://www.cyzo.com/2013/01/post_12301.html

この記事は、日本図書館協会図書館の自由委員会の西河内靖泰氏に取材を行っている。
西河内氏は閲覧の廃止については

閲覧を廃止するということは、実質、図書館ではなく倉庫にするということです。

http://www.cyzo.com/2013/01/post_12301_2.html

と述べている。
これについては私も同意見だ。
この問題について最初に書いたエントリ(id:copyright:20121109:p1)でも述べたが、直接閲覧出来ることで資料の複合的な利用ができると思う。西河内氏の言う「図書館ではなく倉庫にすること」という指摘はまさにその通りだ。

一方で西河内氏は貸し出し廃止についての発言には首をかしげる
西河内氏は次のように述べている。

県立図書館と市町村立図書館が、同じような貸し出しサービスを行う必要はありません

「図書館は貸し出しだけがサービスじゃない」神奈川県立図書館廃止問題から見えた、都道府県立図書館の役割|日刊サイゾー

本来、県立図書館の役割は、レファレンスや県内の遠方の市町村立図書館の支援が役割です。貸し出しサービスを行うと、近隣住民が市町村立図書館と同じ使い方をするだけになってしまうんです

http://www.cyzo.com/2013/01/post_12301_2.html

はたしてそうだろうか。

もちろん、市町村立図書館の支援やレファレンスサービスが県立図書館の役割であることは、私もそう思う。
その役割を果たすために蔵書構築を行えば、県立図書館は必然的に市町村立図書館とは異なる蔵書を持つことになるだろう。そして、神奈川県立の2つの図書館の蔵書は市町村立図書館の蔵書とは違うものになっている。
市町村立図書館と違う目的で構築された蔵書を貸し出すことは、市町村立図書館と同じような「貸し出しサービス」にはならないだろう。

神奈川県立の2つの図書館は、神奈川県立図書館は「社会・人文系リサーチ・ライブラリー」、神奈川県立川崎図書館は「科学と産業の情報ライブラリー」とそれぞれ特色を明確にしている。両館とも、市町村立の図書館とは役割を異にしているし、蔵書構成も異なる。
社会・人文系の調査研究や、科学と産業の情報を求めてやってきた利用者に対して、必要とする蔵書を貸し出すことも、県立の図書館が行うサービスとしては、妥当であると私は思う。

近隣住民が市町村立図書館と同じ使い方をするために神奈川県立の2つの図書館を訪れることが皆無だとは言わないが、同じような使い方をしようと思っても、市町村立図書館とは異なる蔵書構成なのだから、その使い方は必然的に市町村立図書館の使い方とは違ってくるだろう。

西河内氏が神奈川県立図書館について行っているのではなく、県立図書館の一般論として述べているのだと思うが、それでも、神奈川県立図書館の実態はどうなのか、それを踏まえた発言もして欲しい。
「記事を書いた昼間氏も

市区町村立図書館は貸し出しサービスを軸に、一般的な市民サービスを提供する。都立図書館は、より多くの蔵書を持ち、さまざまなレファレンス依頼にも対応できる。つまり、ちょっと本を読みたいならば市区町村立図書館を、調べ物をしたいなら都立図書館を、とサービスの切り分けができているわけだ。けれども、多くの県立図書館では、この切り分けは曖昧だ。

「図書館は貸し出しだけがサービスじゃない」神奈川県立図書館廃止問題から見えた、都道府県立図書館の役割|日刊サイゾー

と述べているが、神奈川県立の2つの図書館において、その切り分けが曖昧であるかどうか、その辺りをちゃんと述べて欲しかった。
神奈川県立の2つの図書館の状況を述べずに、一般論としてこのように述べることは、神奈川県立の2つの図書館の貸し出しサービスの廃止を肯定することになってしまう。
もし、神奈川県立の2つの図書館において、その切り分けが曖昧であるのなら、それを具体的に指摘して欲しかった。曖昧であるなら、それは改善すべき点であるから。

前に紹介した、はまれぽ.comのレポートでは、神奈川県立図書館と横浜市立中央図書館について、その役割の違い、蔵書構成の違いをきちんと述べている。

県立図書館と中央図書館の使い勝手や意外な活用方法は?[はまれぽ.com]
http://hamarepo.com/story.php?story_id=1492

サイゾーの記事を読む際には、このはまれぽ.comのレポートも一緒に読んでもらいたい。