神奈川県立図書館2館の蔵書は現状でも様々なルートで利用できる

昨日、県知事の定例記者会見において、県立図書館の再編問題についての質疑がおこなわれている。

県立図書館サービス廃止で知事「県内全体の利便性高まる」と強調/神奈川:ローカルニュース : ニュース : カナロコ -- 神奈川新聞社
http://news.kanaloco.jp/localnews/article/1211140016/

記者会見でのやりとりは以下で読むことができる。

定例記者会見(2012年11月14日)結果概要 - 神奈川県ホームページ
http://www.pref.kanagawa.jp/cnt/chiji/p536570.html

読んでみて、頭を抱えたくなった。
残念ながら黒岩知事は神奈川県立図書館・神奈川県立川崎図書館がどのようなサービスを行っているか、把握していないようだ。

黒岩知事は次のように述べている。

横浜市の西区の県立図書館の場合にはですね、これは、教育局長も答弁したと思いますけれども、利便性を高めるために、わざわざ県立図書館に行かなくても市町村立の図書館で、その貸出・閲覧サービス、これを受けられるようにしようというふうなこと、これを提案されているわけでありまして、このときにその本体の県立図書館そのものをどうするかということ、これは市町村との合意が得られれば、県立図書館の貸出や閲覧というものを廃止するということになっていくということでしょう。これは、これから後の検討課題ということでしょうかね。

(強調:引用者)

定例記者会見(2012年11月14日)結果概要 - 神奈川県ホームページ

だから申し上げたように、利便性を高めるという必要があると思うんですね。わざわざ横浜の県立図書館まで来なければ閲覧とか貸出ができないっていう今の現状。そうじゃなくて、市町村の図書館でそれができるといったならば、県内全体を見ると利便性が高まると思うんですね。

(強調:引用者)

定例記者会見(2012年11月14日)結果概要 - 神奈川県ホームページ

黒岩知事は、現在、県立図書館・川崎図書館の蔵書はそれぞれの図書館に行かないと閲覧できない・借りられない、と誤解しているが、そんなことはない。
現状においても、わざわざ県立図書館に行かなくても市町村立の図書館で、その貸出・閲覧サービスを受けることができる。
県立図書館のサイトには、ちゃんと次のように書かれている。

3. お近くの市町村等の図書館で、県立の図書館の本や他の市町村の図書館の本を借りることができます。

  • お近くの図書館に資料が所蔵されていなくても、県立の図書館や他の市町村図書館などが持っていれば、その資料を借りることができます。
図書館ネットワーク:神奈川県立の図書館

県知事が、このようなことも知らずに、無責任な発言をしている現状は、非常に嘆かわしい。


なお、県の教育委員会は当然この現状を知っているはずだ。
8日付けの神奈川新聞の記事では、

県立図書館2館の蔵書計約104万冊は、公立図書館など112機関が加入する「県図書館情報ネットワークシステム」(KLネット)を大学や企業に拡充し、各館で共有する仕組みを構築。いずれの施設でも専門書を閲覧可能とすることで、2館で年間約43万人の「利用者の利便性はさらに向上する」としている。

http://news.kanaloco.jp/localnews/article/1211070044/

と、大学と企業に対するサービス拡大が述べられている。

それでは、現在、大学と企業が県立図書館2館の蔵書を利用するルートがあるのか。

まず大学だが、県内の6つの大学と連携が行われている。

大学図書館との連携について
http://www.klnet.pref.kanagawa.jp/information/univ_colla.htm

しかし、その6つの大学以外からも利用することは可能だ。
県立図書館2館ともNACSIS-ILLに参加している。
NACSIS-ILLは参加館同士の資料の相互利用・相互貸借を促進するシステムだ。
全国の大学図書館の大半が参加しているので、全国の大半の大学図書館から神奈川県立図書館2館の蔵書を利用することが、現状でも可能だ。

では、企業ではどうだろうか。
実は、企業でも県立図書館2館の蔵書を借りるルートがある。
神奈川県資料室研究会の会員機関(正会員)であれば、県立図書館2館の貸出を受けることができるのだ。

神資研会員機関にむけて、神奈川県立川崎図書館と神奈川県立図書館の資料を貸出しています。是非、ご利用ください。

神資研会員向けのページ - 神奈川県資料室研究会

もちろん、全ての企業が現状において利用できる訳では無いが、神資研の会員になりさえすれば利用できる。
とりあえず、企業からも利用できるルートはあるのだ。


現状において、これだけ県立図書館2館の資料を利用するルートはある。
県知事ですら知らないのだから、認知度という点で課題はあるのだが、これだけ利用するルートがあるなかで、「利便性を高める」「利用者の利便性はさらに向上する」というのであれば、もっと具体的にどれだけ便利になるのか示して欲しい。

少なくとも、今出ている情報だけでは、利便性がさらに向上するとは思えない。

暴走する地方自治 (ちくま新書)

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情報から真実をすくいとる力

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