出版社21社が電子書籍の新団体

asahi.com朝日新聞社):電子書籍化へ出版社が大同団結 国内市場の主導権狙い - 文化
http://www.asahi.com/culture/update/0113/TKY201001120503.html

時事ドットコム電子書籍対応で出版界が新団体
http://www.jiji.com/jc/c?g=eco_30&k=2010011300275

出版社:国内21社が電子書籍協会発足へ アマゾンに対抗 - 毎日jp(毎日新聞)
http://mainichi.jp/select/wadai/news/20100113k0000e040056000c.html

出版21社が電子書籍法人設立 アマゾン端末対処も視野 - 47NEWS(よんななニュース)
http://www.47news.jp/CN/201001/CN2010011301000375.html

出版21社が電子書籍法人設立へ - SankeiBiz(サンケイビズ)
http://www.sankeibiz.jp/business/news/100113/bsb1001131705007-n1.htm

どうも、電子文庫パブリを法人化するということらしい。

電子文庫パブリ
http://www.paburi.com/paburi/Default.asp

screenshot
自分は結構電子書籍を買っていて、パブリは自分も利用している。これまで2〜30冊は買っているかな。
テキストファイル、ドットブック形式、XMDF形式と、ファイル形式は出版社毎に違うけど、Willcom03ではどれも対応しているので、読むのには不自由することはない。*1
しかし、古い作品が多かったり、出版社も13社に限られているし、小説中心だし、そもそも冊数自体が少ない*2し、本当にたまに使う程度でしかない。
パブリがもっと充実する方向になるのであれば、それは歓迎したい。


ただ気になる点もある。
例えば朝日の記事では、

著作権法ではデジタル化の許諾権は著作者にある。大手出版社幹部は「アマゾンが著作者に直接交渉して電子書籍市場の出版権を得れば、その作品を最初に本として刊行した出版社は何もできない」と語る。

http://www.asahi.com/culture/update/0113/TKY201001120503.html

の箇所や

講談社野間省伸(よしのぶ)副社長は「経済産業省などと話し合い、デジタル化で出版社が作品の二次利用ができる権利を、著作者とともに法的に持てるようにしたい」との考えだ。

http://www.asahi.com/culture/update/0113/TKY201001120503.html

のところ、*3毎日の記事では

同協会は、著者や販売サイトとの契約のモデル作りをしたり、電子書籍の端末メーカーと著者、出版各社などの交渉窓口となる。デジタル化に伴う作品2次利用に関する法整備も求めていく。

http://mainichi.jp/select/wadai/news/20100113k0000e040056000c.html

のあたり。
出版社はこれまでも著作隣接権としての出版社の権利を要望し続けているが、電子書籍にからめて「出版社にも権利が必要だ」という主張をまたするのではないか、という点が気になる。
確かに著作権法における「出版権」の対象に電子出版は入っていない。
著作権法の第79条以降に定められている。

(出版権の設定)
第七十九条 第二十一条に規定する権利を有する者(以下この章において「複製権者」という。)は、その著作物を文書又は図画として出版することを引き受ける者に対し、出版権を設定することができる。
2 複製権者は、その複製権を目的とする質権が設定されているときは、当該質権を有する者の承諾を得た場合に限り、出版権を設定することができるものとする。

そして80条に次の記述がある。

(出版権の内容)
第八十条 出版権者は、設定行為で定めるところにより、頒布の目的をもつて、その出版権の目的である著作物を原作のまま印刷その他の機械的又は化学的方法により文書又は図画として複製する権利を専有する。

出版権は、ここにあるように「印刷その他の機械的又は化学的方法により文書又は図画として複製する権利」なので、いわゆる電子書籍は含まれないものと思う。
なので、アマゾンが直接交渉して著作者から電子書籍化の許諾を得ることができれば、アマゾンから電子書籍が出ると言うことだってあるだろう。
では、出版社はそれに対抗する手段はないのだろうか?
実は既に用意されている。それは「出版契約」だ。
日本書籍出版協会は各種契約書のヒナ型を提供している。

契約書 | 刊行物/契約書 | 社団法人 日本書籍出版協会
http://www.jbpa.or.jp/publication/contract.html

例えば出版契約書(一般用)ヒナ型には

第 20 条(電子的使用)甲は、乙に対し、本著作物の全部または相当の部分を、あらゆる電子媒体により発行し、もしくは公衆へ送信することに関し、乙が優先的に使用することを承諾する。具体的条件については、甲乙協議のうえ決定する。
2.前項の規定にかかわらず、甲が本著作物の全部または相当の部分を公衆へ送信しようとする場合は、あらかじめ乙に通知し、甲乙協議のうえ取扱いを決定する。

という条項が盛り込まれているし、著作物利用許諾契約書ヒナ型には

第2条(その他の複製等への利用の許諾及び第三者への許諾)
本著作物の以下の利用については、甲は乙に対して、優先的に許諾を与え、その具体的条件は、甲乙別途協議のうえ定める。ただし、乙が自ら利用する意思を表明しない場合の第三者への許諾については、甲はその権利処理を乙に委任し、乙は具体的条件に関して甲と協議の上決定する。
(1) 電子媒体に記録したパッケージ出版物として複製し、翻案し、販売すること(以下「電子出版」という)
(2) 本著作物を電子的に利用し公衆に送信すること
(3) 本著作物をデータベースに格納し検索・閲覧に供すること


(引用者注:丸数字で記載されていたが、文字化けするのでカッコに変えている)

という条項が盛り込まれている。
このヒナ型を用いて出版契約なり著作物利用許諾契約なりを著作者と結んでいれば、アマゾンが著作者と直接交渉をしても、この契約で対応することができる。*4
変に出版社が囲い込むことによって、電子書籍の発行を阻害するような方向になって欲しくはない。


その辺り、だいぶ前の記事だが、この記事が参考になる。

長谷川 秀記. “ある電子書店主の思い出話”. 情報管理. Vol. 46, No. 4, (2003), 266-268 .
http://www.jstage.jst.go.jp/article/johokanri/46/4/46_266/_article/-char/ja/

この記事の中に次のような箇所がある。

 話は少し戻る。Aさんの開業から数年後,大手の出版社も電子書籍に参入し始めることになる。しかしその頃いろいろな会合で聞いた話を総合すると,当時のほとんどの大手出版社のスタンスは基本的に「防衛」なのである。著作権切れの本を入力してリリースする青空文庫の登場。著者のホームページからの直接発信etc…。「(自社の)出版物を電子化しないと他に取られてしまう。防衛上やるんです」である。紙の本ではすでに絶版や品切れになったものだけを電子化するという方針で電子化を進める会社も多い。

この記事が書かれてから6年半が経っているが、今でもこのようなスタンスの出版社が多いのでは無いだろうか、今回の動きもこれと同じではないだろうか?


私はこの21社の動きよりも、昨日取り上げたポット出版の動きの方に期待をしている。

*1:前はPDFもあったように記憶している。

*2:本日現在総作品数10,964冊。2000年にオープンしているようなので、年間1,000冊程度しか出ていない計算になる。

*3:出版社が話し合いをするのが文化庁ではなく経済産業省である点が興味深い。著作権法上の権利とは別にそのような権利を設けようとしているのだろうか?

*4:もちろん、これはヒナ型に過ぎないし、契約は双方の合意によって結ばれるものなので、著作者が拒否すればそれまでではあるが。