法制問題小委員会に提出された出版関連団体の資料を読んで

現在、文化審議会著作権分科会法制問題小委員会で、日本版フェアユース導入の議論がなされている。
第3回〜第5回は各種団体を対象としたヒアリングが行われており、第3回については議事録、第4回・第5回については配付資料が既に公開されている。

文化庁 | 著作権 | 著作権制度に関する情報 | 文化審議会著作権分科会 | 法制問題小委員会 | (平成21年第3回)議事録
http://www.bunka.go.jp/chosakuken/singikai/housei/h21_shiho_03/gijiyoshi.html

文化庁 | 著作権 | 著作権制度に関する情報 | 文化審議会著作権分科会 | 法制問題小委員会 | (平成21年第4回)議事録
http://www.bunka.go.jp/chosakuken/singikai/housei/h21_shiho_04/gijiyoshi.html

文化庁 | 著作権 | 著作権制度に関する情報 | 文化審議会著作権分科会 | 法制問題小委員会 | (平成21年第5回)議事録
http://www.bunka.go.jp/chosakuken/singikai/housei/h21_shiho_05/gijiyoshi.html

全部をちゃんと目を通したわけではないが、いくつか目を通して見た。
その中で、第5回の配布資料の中の、出版関連団体提出資料を読んで、あるところで目を引かれた。

資料2 出版関連団体提出資料(PDF形式(168KB))
http://www.bunka.go.jp/chosakuken/singikai/housei/h21_shiho_05/pdf/shiryo_2.pdf

それは次の箇所

7 弁護士を多数抱える法律事務所や法律学者が多数在籍する大学等の研究機関で現在、複写権の権利処理を行っている著作権管理事業者と包括許諾契約を締結しているところはほとんどないが、それらの法律専門家が出版物の複写を行っていないとは考え難い。規模の大きい法律事務所で商業雑誌をスキャンし、所内に配信しているという例も一部の法律書出版社から指摘されている。

http://www.bunka.go.jp/chosakuken/singikai/housei/h21_shiho_05/pdf/shiryo_2.pdf

文献のコピーの著作権処理が、自分が著作権について考えることになった原点なので、出版関連団体がこういうことを述べていることについては、とても興味深い。
私も、同様なことは述べたことがある。
例えばこのブログの結構初期のことにこんなことを書いてる。

法学部の先生に聞きたいのですが、自分が読むために大学図書館でコピーした文献はちゃんと31条の範囲内でコピーしたモノなのでしょうか。自分が論文を書く際に32条の範囲内で引用を行っているのでしょうか。逆に自分が書いた文章を32条の範囲内で(無断で)引用された場合にどのような反応をするのでしょうか。

一億総クリエーター、一億総ユーザーとは - Copy & Copyright Diary

ここまでの問題意識は、出版関連団体と私は共有しているのだと思う。
ただ、ここから先は正反対の方向を向いている。
出版関連団体提出資料では

権利処理の仕組みがあるにも関わらず、法律専門家でさえ著作権を軽視する状況がある中で、権利制限の拡大を認めるような一般規定の導入を行うことは、現在の行為を追認するかのような流れを生み出し大きな混乱を招くことになる。著作権意識の啓発がまず何よりも必要である。

8 出版物の複写に関しては、日本複写権センター出版者著作権管理機構学術著作権協会等の著作権管理事業者によって、適切な権利処理体制が整いつつある。このような管理事業者を通して容易に許諾を得ることが可能であるにもかかわらず、権利制限の範囲を拡大することは、適切な権利処理システムの構築を促進するというわが国の知的財産政策に逆行することになる。

となっている。
現行の著作権制度を金科玉条のものとして、それに従うべきだ、というのが基本線のようだ。


しかし私はそうは考えない。
法律の専門家でさえ、複写の権利処理を行っていない、行えないというのであれば、その権利処理自体の妥当性が問われるべきだ、というの私のスタンスだ。
さらに言えば、今の権利処理体制が本当に妥当なものかについても問われなければならないだろう。
複写の権利処理について、複数の団体に分かれていること、しかものその団体が分裂したり統合したりを繰り返しているような状況では、契約をしてもそれが本当に妥当なのかどうか、それで安心できるのかという問題だってあるだろう。
まぁ、これについては私は最近はちゃんとフォローできていないないので、ここまでにしておく。


私が、この出版関連団体の提出資料を引き合いに出したのは、法制問題小委員会の委員に考えていただきたいからだ。

あなた方は、著作物を利用するときに、それが権利制限の範囲に無いときは、全て適正な権利処理を行っていますか?

大手法律事務所に所属されている委員の方、大学等の研究機関に所属されている委員の方、あなたのところはどうですか?

胸をはって、自分は全て適正に処理している、という委員がいるのであれば、その権利処理の内容を全て明らかにして欲しい。
逆に、自分はできていないかもしれない、と思っている委員には、では自分出すら権利処理できていないことについて、きちんと向き合って欲しい。