フェアユースはネットビジネスよりも非商業的利用の拡大に有効
救いようがない知財本部の報告書に怒りを インターネット-最新ニュース:IT-PLUS
http://it.nikkei.co.jp/internet/news/index.aspx?n=MMIT12000031102008
岸氏の発言は、私にとっては読む価値の無いものがほとんどだが、今回はごく一部とは言え、うなずくことのできる箇所があった。
それは次の箇所。
既にフェアユース規定が導入されている米国や英国では、フェアユースの適用範囲は著作物の利用の目的(研究、報道など)で限定されている。そして、その目的にはビジネスという言葉など入っていない。それは当然であろう。ビジネスは利用の目的となる行為を商売に取り入れた結果でしかなく、ビジネス自体が目的にはなり得ないからである。
それなのに報告書では、フェアユースを認めるべき利用目的については何の分析も議論もないまま、ビジネスや産業創出といった理由だけを挙げて唐突にフェアユース規定の導入を主張している。目的と結果を意図的に混同しているとしか思えない。
(強調:引用者)
もちろん、ビジネスに活用できる利用方法でフェアユースとして認められている事例は無いわけではない。
しかし、米国においては、商業的利用は非商業的利用よりもフェアユースとして認められにくく、非商業的利用の方がフェアユースとして認められるケースが多いと言われている。
たとえば、私の一番の関心事である、企業内での文献複写に関しては、米国の裁判ではフェアユースが認められていない。
であるならば、岸氏の言うように、ビジネスを理由にフェアユース規定の導入を謳うことについては、違和感を感じざるを得ない。
ただ、誤解しないでいただきたいが、私はフェアユース規定の導入には賛成である。
それはビジネスでの自由利用の範囲が拡大することを期待してではない。もちろんビジネスにおける自由利用の範囲が拡大することに反対するわけではないが、正直そこにはあまり期待していない。
それよりも、営利を目的としない自由利用の範囲が拡大することを期待している。
たとえば、米国での事例を考えると、教育目的の利用や、批判・批評目的の利用などではフェアユースの適用は期待できる。
あと、個人的には障害者福祉のための利用・改変などにフェアユースが適用されること期待したい。
もちろん現状の著作権法においても第33条で「教科用拡大図書等の作成のための複製等」、第37条で「点字による複製等」、第37条の2で「聴覚障害者のための自動公衆送信」について権利制限が規定されている。
しかし、それぞれの規定については、その範囲が厳しく定められていて、私には充分なものとは思えない。
障害者福祉関係であれば、市場性はほとんど無いと思われるので、フェアユースの適用が期待できるのではないかと思う。
フェアユースの導入は、このような、市場性や経済性は無いが、権利制限規定が無いために利用できないところを、救えるところに意味があると思う。
フェアユース導入に関しては、ビジネス云々よりも、非営利の利用を拡大することを強調して欲しい。
そして、昨日のエントリの続きになるが、think Cの共同提言に賛成できない、いや反対せざるを得ない理由はここにある。
昨日も指摘したが、think Cの共同提言のフェアユースにかんするところで次のような箇所がある。
特に教育・福祉等の公益目的で自由利用された作品に限り、権利者に対して一定の公的報償を行うことも検討する。
これは私がもっともフェアユースに期待している範囲について「公的補償」を求めている。
「公的補償」と「教育・福祉等の公益目的」の自由利用がセットになってしまえば、「公的補償」が不充分であるなら「教育・福祉も等の公益目的」の自由利用は認めない、という流れになってしまう可能性を、私は危惧している。
再度言うが、フェアユースはビジネス目的よりも、「教育・福祉等の公益目的」の自由利用を広げる可能性に、私は期待している。
だからこそ、「教育・福祉等の公益目的」の自由利用に「公的補償」を求めるthink Cの共同提言には賛同できないし、反対せざるを得ない。
米国のフェアユースについては次の図書を参考にした。
アメリカ著作権法の基礎知識 第2版 (ユニ知的所有権ブックス)
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