どすこい出版流通

自分は結構出版界に対しては厳しい意見を述べることが多いのだけど、本書を読んで出版界も捨てたものではないというか、まだまだ希望はあると思った。

どすこい 出版流通

どすこい 出版流通

どすこい 出版流通 筑摩書房「蔵前新刊どすこい」営業部通信1999-2007 (田中達治)●版元ドットコム
http://www.hanmoto.com/bd/ISBN978-4-7808-0117-0.html

[ポット出版]書誌情報 どすこい 出版流通●スタジオ・ポット/ポット出版
http://www.pot.co.jp/pub_list/pub_book/ISBN978-4-7808-0117-0.html

本書は筑摩書房の前取締役営業局長の故田中達治氏が、筑摩書房の書店向け新刊案内に掲載されたコラムをまとめたものだ。
当初はご本人が加筆訂正を行うことで他の出版社から出版される予定だったが、田中氏が亡くなられたために、その出版社からの出版は断念された。
その後、ポット出版が出版を申し出て、出版にこぎ着けた。
元々は書店向けに書かれたものなので、出版業界用語が多く使われているが、版元ドットコムの有志が、業界用語に注で解説をしている。
1999年〜2007年と、出版業界が縮小していく中で、出版社の営業の立場から歯に衣着せぬ発言をされている。
一読者として、共感を覚えるところが多かった。
60坪書店日記さんも取り上げているが、やはり、帯にも使われている

私は「良書」という言葉が、いや、ことあるごとに「良書」を口にする出版人がキライだ。……

の箇所は、本当にすばらしい。
「良書」を出版し続けていると外から見られていたと思う筑摩書房の取締役から発せられるだけに、この言葉は非常に重いものだと思う。

他にも、ISBNの問題点、ストアオートメーションの書店への悪影響、出版における物流の意義・重要さなど、出版界の抱える問題についての指摘など、出版界の問題点を明解に指摘しているところが多く、痛快な気持ちを覚えると同時に、逆に田中氏のような方がいたにも関わらず、出版界の凋落に歯止めをかけることができなかったという現実に、出版界がどれだけ多くの問題を抱えていて、それを解決できないでいるのかということを改めて思い知らされたような気がする。
出版に関わる全ての人、そして、本が好きな人、本をこれからも読んでいきたいと思う人にも、本書を読んでいただきたいと思う。