国会図書館は全頁のコピーを提供できない

文化・著作権を楯にコピーもままならぬ国会図書館なんて!
http://www.news.janjan.jp/culture/0711/0711010945/1.php

私も、図書館で本の全頁コピーを取りたいと思うことはありますし、雑誌の最新号の記事の全文のコピーを取りたいと思うことはあります。
それができてしまう図書館も無いわけではありませんが、著作権法を遵守している図書館では、著作権者の許諾を得なければ、それはできません。
著作権の権利制限規定として、著作権法第31条に、図書館で許諾無しに行える複写について記されています。
通常は、図書館はこの範囲内で複写サービスを行っています。

(図書館等における複製)
第三十一条 図書、記録その他の資料を公衆の利用に供することを目的とする図書館その他の施設で政令で定めるもの(以下この条において「図書館等」という。)においては、次に掲げる場合には、その営利を目的としない事業として、図書館等の図書、記録その他の資料(以下この条において「図書館資料」という。)を用いて著作物を複製することができる。
一 図書館等の利用者の求めに応じ、その調査研究の用に供するために、公表された著作物の一部分(発行後相当期間を経過した定期刊行物に掲載された個個の著作物にあつては、その全部)の複製物を一人につき一部提供する場合
(強調:引用者 以下略)

この範囲内で複写サービスを行う場合、書籍については著作物の一部分しか複写を行うことができません。「一部分」は通常半分以下とされています。
また、雑誌などの定期刊行物については、発行後相当期間(通常は次の号がでた後)は、個々の記事の全文を複写できますが、最新号はやはり「一部分」しか複写できません。
いずれも、「一部分」というのは著作物単位で考えるので、例えば短編集等のように一冊の本に複数の著作物が掲載されている場合も、個々の著作物の全文を複写できるわけではありません。
利用する側にとっては、全文を複写できないのは、とても不便です。
特に、絶版になった書籍については、他に入手する手段が無いので、全文のコピーを禁止する必要性が何処にあるのか、私には理解できません。
しかし、それは図書館が決めたことでなく、著作権法によって定められていることなのです。
だから、図書館を批判しても、どうしようも無いのです。
批判すべきは図書館ではなくて、著作権法のほうです。
記事の中に

現在の価格にすれば2,000〜3,000円の書物が入手できないために、これだけの努力を払わなければ、その書物の半分を家で読むことはできないのである。果たして、(当然ながら)この著作物利用裁定とやらは、ほとんど利用されていない。書籍が入手できればしなくてもいい、こんな努力を誰がするだろうか。こんなことまでも、著作者は求めていると、図書館側は本当に思っているのであろうか。

とありますが、図書館側が本当にそう思っていなくても、それでも著作権法を侵害することはできない、特に立法府にある国立国会図書館著作権法を侵害するわけにはいかないのです。
上記引用部分については、私も同意します。
しかし、それは図書館に向かって言うのではなく、文化庁文化審議会著作権分科会に向けて主張してもらいたいと思います。


なお、今回のように図書館は著作権について利用者から批判されることもあれば、著作権者の側から批判されることもあります。
著作権者に対しては利用者の代弁者になり、利用者に対しては著作権者の代弁者になることもあります。
私は常々、著作権を考える上で、自分が利用者であると当時に著作権者でもあることを自覚する必要がある、と主張してきましたが、図書館まさに利用者の代弁者と著作権者の代弁者という双方の立場にあると言っていいでしょう。
図書館向けに書かれた著作権の解説書はバランスの取れたものが多いと思いますが、それは図書館がそのような立場にあるからではないかと思います。
図書館関係者で無くても、著作権について興味のある方にとって、参考になると思います。