運用に関する質問主意書への答弁

今国会提出の著作権法の一部を改正する法律案に於ける暫定措置廃止後の法律の運用に関する質問主意書に対する答弁書がARTSの掲示板に掲載されたので、ツッコミを入れていきます。
質問主意書

一 図書館法第二条二項に言う「私立図書館」もしくは第二十九条の「図書館と同種の施設」は、同法二十八条により「入館料その他図書館資料の利用に対する対価を徴収することができる」ものと定められているが、本条の「対価」を徴収する場合は著作権法第三十八条四項の「営利を目的とせず、かつ、その複製物の貸与を受ける者から料金を受けない場合」の要件(以下「著作権法第三十八条四項の要件」という。)に該当しないものと見なされ、附則廃止後はその設立・運営趣旨の如何に関わらず、権利者ないし権利者より権利行使を委託された事業者(以下「権利者等」という。)による書籍又は雑誌を貸与により公衆に提供する行為(以下「貸与」という。)への規制が及ぶこととなるのか。

答弁

一について

 図書館法(昭和二十五年法律第百十八号)第二条第二項に規定する私立図書館又は、図書館法第二十九条第一項に規定する図書館と同種の施設が、これら施設の利用者から、図書館法第二十八条に規定する入館料その他図書館資料の利用に対する対価を徴収している場合において、当該対価が、書籍又は雑誌の貸与に対する対価という性格を有するものではなく、これらの施設の一般的な運営費や維持費に充てるための利用料であると認められる場合には、著作権法(昭和四十五年法律第四十八号。以下「法」という。)第三十八条第四項に規定する「料金」に該当しないものと解される。

著作権法第38条では、「料金」について次のように記されている。

いずれの名義をもつてするかを問わず、著作物の提供又は提示につき受ける対価をいう。以下この条において同じ。

なので第三十八条第四項の規定する「料金」もこれと同じものである。
これを読むかぎりにおいて「どのような名義」であっても、対価として徴収するものは「料金」と見なされてしまうのではないか、「施設の一般的な運営費や維持費に充てるための利用料であると認められる場合」は「料金」とは見なされない、という根拠はどこにあるのだろう? 私には見つけられなかった。
以下の答弁では、この「料金」についての答弁を根拠として答えているので、この答弁のもつ意味は非常に重大だ。なぜ、「施設の一般的な運営費や維持費に充てるための利用料であると認められる場合」は「料金」とは見なされないのか、その根拠を示してもらわないと、安心できない。

質問

二 私立の学校法人がその付属施設として図書館を運営している場合、生徒から授業料を徴収して図書館の運営費用に充てる行為は著作権法第三十八条四項の要件のうち「その複製物の貸与を受ける者から料金を受けない場合」に該当せず、附則廃止後は権利者等による貸与への規制が及ぶこととなるのか。また、本年四月より株式会社による学校経営が特区制度により実施されているところであるが、当該学校組織の付属施設として設置される図書館は著作権法第三十八条四項の要件のうち「営利を目的にせず」に該当せず、附則廃止後は権利者等による貸与への規制が及ぶこととなるのか。

答弁

二について

 私立の学校法人が、その設置する学校に在籍する生徒から徴収する授業料は、当該学校の管理運営等の支出全般に充てられるものとして徴収されることが通例であり、その一部が当該学校の附属図書館の運営費に充てられるとしても、そのことをもって直ちに当該授業料が書籍等の貸与に対する対価という性格を有するものではなく、法第三十八条第四項に規定する「営利」とは、業としてのその貸与行為自体から直接的に利益を得る場合又はその貸与行為が間接的に何らかの形で貸与を行なう者の利益に具体的に寄与するものと認められる場合というものと解される。したがって、構造改革特別区域法(平成十四年法律第百八十九号)第十二条に定められる学校設置会社が設置する学校の附属図書館において、通常の教育活動として、当該学校に在籍する生徒等に書籍等の貸与を行なう行為は、法第三十八条第四項に規定する「営利」を目的とするものに該当しないものと解される。

前半については、既に述べた。
後半についても、非常に問題である。

第三十八条第四項に規定する「営利」とは、業としてのその貸与行為自体から直接的に利益を得る場合又はその貸与行為が間接的に何らかの形で貸与を行なう者の利益に具体的に寄与するものと認められる場合というものと解される。

というが、例えば音楽において、JASRACは「営利事業を行う施設でのBGMを利用する場合は、使用料の支払対象となります。」という見解である。店側はBGMを流すことで直接利益を得ていないはずだが、それでも利用料を徴収している。もし、この答弁が正しいのであるなら、JASRACは法律上の誤った解釈によって著作権料を徴収していることになるし、もし、JASRACの主張が正しいのであれば、政府の答弁が誤っていることになる。

質問

三 鉄道会社の中には乗客の利用に資するため駅に図書館法第二十九条の「図書館と同種の施設」である「文庫」を設置し、書籍又は雑誌を無償で貸与している事例が見られるが、当該行為は、営利を目的とした会社組織が乗客の増進を目的として設置したものであり、著作権法第三十八条四項の要件をいずれも満たさないものとして、附則廃止後は権利者等による貸与への規制が及ぶこととなるのか。他方、類似の行為を地方自治体の教育委員会等が市営交通機関の駅に於いて実施した場合は、著作権法第三十八条四項の要件をいずれも満たすものとみなされ、附則廃止後も権利者等による貸与への規制は及ばないこととなるのか。

四 大手スーパーマーケットの中には児童の利用に資するため図書館法第二十九条の「図書館と同種の施設」としての文庫を店内に設置している事例も見られるが、運営主体が株式会社であることにより著作権法第三十八条四項の要件に該当しないものとみなされ、その設立・運営趣旨の如何に関わらず附則廃止後は権利者等による貸与への規制が及ぶこととなるのか。また、こうした形態によって児童への書籍又は雑誌を貸与により提供する行為を著作権法に於いて禁止する権利を付与することは子どもの読書活動の推進に関する法律(平成十三年法律第百五十四号)第三項(国の責務)に反し、権利者等が附則廃止後に本権利の行使により貸与を禁止する行為は同法第二条(基本理念)及び第五条(事業者の努力規定)に反するものではないのか。

答弁

三について

 二についてで述べたように、法第三十八条第四項に規定する「営利」とは、業としてのその貸与行為自体から直接的に利益を得る場合又はその貸与行為が間接的に何らかの形で貸与を行なう者の利益に具体的に寄与するものと認められる場合というものと解され、お尋ねの鉄道会社が、駅に文庫を設置して、乗客に書籍又は雑誌の貸与を行う行為は、一般的には、自己の利益を図るものではないと考えられ、法三十八条第四項に規定する「営利」を目的とするものに該当しないものと解される。
 また、お尋ねの地方自治体の教育委員会等が、公的活動として、市営交通機関の駅に文庫を設置して、乗客に書籍又は雑誌の貸与を行う行為は、一般的には、自己の利益を図るものではないと考えられ、法三十八条第四項に規定する「営利」を目的とするものに該当しないものと解される。

四について

 お尋ねのように、大手スーパーマーケットが、店内に文庫を設置して、顧客に書籍等の貸与を行う事例も見受けられる。そのような場合には、当該行為が、例えば、顧客の増加を通じてその売上げの拡大を図ることを目的として行われるものであるならば、法第三十八条第四項の「営利」を目的とするものに武該当するものと解される。
 読書活動の素材となる書籍等を創作する著作者の権利について、適切な保護を図ることは、子どもの読書活動の推進に関する法律(平成十三年法律第百五十四号)の趣旨に反するものではない。今国会に提出されている著作権法の一部を改正する法律案により、書籍等の貸与について、貸与権を及ぼすことは、著作者の権利の適切な保護を通じて、書物の創作活動の促進に資するものであると考えている。

三についての答弁についても、一・二についての答弁で指摘したことが、そのまま当てはまる。
また、鉄道会社が乗客に書籍・雑誌を貸与する行為が「一般的には、自己の利益を図るものではないと考えられ」、スーパーが同様の行為を行う場合「例えば、顧客の増加を通じてその売上げの拡大を図ることを目的として行われるものであるならば、法第三十八条第四項の「営利」を目的とするものに武該当するものと解される。」とする理由が、私には理解できない。その違いはどこにあるのだろうか?

この答弁では、私は納得できない。