貸与権

id:floresさんからのコメントで知りました。

貸本からも著作権料、作家の「貸与権認める」法改正へ
http://www.yomiuri.co.jp/main/news/20030930i105.htm

まず、見出しの「作家の「貸与権認める」」はミスリード
貸与権が適用されていなかったのは「書籍又は雑誌」である。
作家であろうがなかろうが関係は無い。「書籍又は雑誌」という形態に対して適用されていなかったのである。
例えば、画集にも貸与権は適用されていなかったので、そういう面では「画家」だって「貸与権」が認められていない部分があるのだ。
加えて言えば、著作権(とその一部である貸与権)は「作家」だけの特権ではない。私も含めて表現を行う者(こんな駄文であっても著作物であることにはかわりはない)には等しく認められている権利である。

上記の記事だけでは、詳細がわからないが、どうも附則第4条の2*1の廃止を考えているようである。
この附則がつけられた背景には、以下の3点があるらしい。*2

1.江戸時代以来の貸本業の歴史的経緯
2.貸本業が出版業に大きな経済的な不利益を与えていないという実態
3.集中的権利処理機構の未整備

これらの状況がどう変わったのだろうか。
私が特に問題に思うのは、3番めの出版界にはきちんと機能している集中処理機構が存在しないことである。集中処理機構が機能しなければ、許諾を得るための手間が膨大になり、現実問題として貸本業は成り立たなくなるでしょう。

私が懸念するのが、貸与権と公貸権を一緒くたにして、ついでに公貸権も、と一気に進んでしまうのではないかと言うことである。この文献*3を読めば分かるとおり、著作権の一部である貸与権と、公貸権は趣旨の異なる全く別の権利である。

最後にここに明記しておくが、仮に附則第4条の2を削除したとしても、第38条の4*4があるので、公共図書館などでの貸出には全く影響は無い。

*1:(書籍等の貸与についての経過措置)第四条の二 新法第二十六条の三の規定は、書籍又は雑誌(主として楽譜により構成されているものを除く。)の貸与による場合には、当分の間、適用しない。(昭五九法四六・追加、平十一法七七・一部改正)

*2:加戸守行著 著作権法逐条講義 四訂新版(ISBN:488526040X)749-751ページ、作花文雄著 著作権法 基礎と応用(ISBN:4827107246)123-124ページ、等参照

*3:南亮一. 「公貸権」に関する考察−各国における制度の比較を中心に. 現代の図書館. Vol.40, No.4, 2002, p.215-231.

*4:公表された著作物(映画の著作物を除く。)は、営利を目的とせず、かつ、その複製物の貸与を受ける者から料金を受けない場合には、その複製物(映画の著作物において複製されている著作物にあつては、当該映画の著作物の複製物を除く。)の貸与により公衆に提供することができる。