図書館の本の貸出の法的根拠

久しぶりに著作権貸与権)について書いてみます。

ポット出版プラス電書という紙の書籍に電子書籍がついてくるサービスについて、それを図書館がサービスとして提供できるかについて、書かれています。

プラス電書でつけた電書を電子図書館にいれられるか? | ポット出版
http://www.pot.co.jp/diary/20141116_191605493934514.html

基本的には、同意するのですが、「図書館の本の貸出の法的根拠」について書かれているところで

(図書館学や著作権に詳しい人に突っ込まれたい)

プラス電書でつけた電書を電子図書館にいれられるか? | ポット出版

とあったので、少し書かせていただきます。

沢辺さんは

図書館は図書館法の
「「図書館資料」という。)を収集し、一般公衆の利用に供すること。」が根拠なんじゃないかな? 

プラス電書でつけた電書を電子図書館にいれられるか? | ポット出版

と書かれています。
これは図書館法第3条で定められている

おおむね次に掲げる事項の実施に努めなければならない。

http://law.e-gov.go.jp/htmldata/S25/S25HO118.html

の後に掲げられている事項の1番目の事項です。
この図書館法第3条に基づいて貸出サービスを行っているというのは多分正しいでしょう。
しかし、注意しなければならないのは、第3条は義務ではないこと。
図書館に貸出サービスが義務づけられているのであれば、多分著作権法で図書館法との調整のための規定が定められるのではないかと思います。

では著作権法の方を見てみると、著作権の支分権の一つに貸与権が定められています。

貸与権
第二十六条の三  著作者は、その著作物(映画の著作物を除く。)をその複製物(映画の著作物において複製されている著作物にあつては、当該映画の著作物の複製物を除く。)の貸与により公衆に提供する権利を専有する。

図書館での貸出サービスはまさにこの「貸与により公衆に提供する」に該当します。
この「貸与により公衆に提供する」行為は著作権者にだけ認められているので、この条文だけを読むと、著作権者ではない図書館は貸出サービスを行うことはできません。
しかし、この貸与権にはその権利の及ばない範囲があります。
それが定められているのが以下の条文。

(営利を目的としない上演等)
第三十八条
4  公表された著作物(映画の著作物を除く。)は、営利を目的とせず、かつ、その複製物の貸与を受ける者から料金を受けない場合には、その複製物(映画の著作物において複製されている著作物にあつては、当該映画の著作物の複製物を除く。)の貸与により公衆に提供することができる。

「営利を目的とせず、かつ、その複製物の貸与を享者から料金を受けない場合」であれば、著作権者の許諾をえること無く、貸出サービスを行うことができるのです。
著作権法的には、図書館の貸出サービスの根拠は「営利を目的とせず」「料金を受けない」貸出である、と言うことです。

注意していただきたいのは、「営利を目的とせず」「料金を受けない」貸出を行う上で、図書館であるか無いかは条件にはなっていないと言うことです。*1
つまり、図書館であるから貸出サービスを行うことができる訳ではない、ということです。

図書館であろうと無かろうと、「営利を目的とせず」「料金を受けない」のであれば、著作権者の許可を得ること無く貸出サービスを行うことができるし、図書館であっても、営利を目的とした貸与、営利を目的としていないが料金を受ける貸与は、著作権者の許諾を得ないと行うことができないのです。

繰り返しますが、著作権者の許可を得ること無く貸出サービスを行う上で、図書館であるかないかは関係無いのです。*2

これらのことは、大分前に下記エントリーで挑発的に書いていますが、図書館に関わる方たちの中で、どのくらいの方がこのことを認識されているのでしょうか?

大きく変わった「図書館無料の原則」の意義 - Copy & Copyright Diary
http://d.hatena.ne.jp/copyright/20080211/p1

「森の図書室」について

これに関連することで、少し前に山本一郎氏が次の記事を書かれていました。

飲み屋だって図書館やってもいいじゃないかという新しいムーブメントを考える(訂正あり)(山本 一郎) - 個人 - Yahoo!ニュース
http://bylines.news.yahoo.co.jp/yamamotoichiro/20140822-00038489/

その中で、私の過去のエントリーを参照しつつ、「森の図書室」という会員制の貸出サービスについて検証されています。

そしてこの「森の図書室」が図書館法の私立図書館に該当するかどうかについても検証されていますが、これまで述べたように、図書館法の図書館であってもなくても、貸出サービスを行う上では何の影響もありません。
ただ単に、「営利を目的とせず」「料金を受けない」この2つの条件を満たしているかどうかだけを判断すればいいのです。

山本氏が参照された私の過去のエントリーは、このうちの「料金」の解釈についての政府見解を紹介したものです。この政府見解の中図書館法の私立図書館が云々という記述を私が紹介していたために、山本氏は「森の図書室」が図書館法の私立図書館であるかないかにこだわったのかもしれませんが、「森の図書室」の貸出が営利目的なのか、料金を受ける貸出なのか、この2点について検討すればいいと、私は思います。

*1:なお、映画の貸与に関連しては、政令において図書館法の図書館であることが条件の一つとなっています。

*2:著作権法第31条の図書館等における複製等の権利制限は複製権の権利制限であって、貸与権の権利制限ではありません。