「知的財産推進計画2012」に盛り込まれた内容

本日「知的財産推進計画2012」が決定された。

技術の海外流出に防衛策 知財計画2012を決定  :日本経済新聞
http://www.nikkei.com/article/DGXNASFS29003_Z20C12A5EB1000/

技術の海外流出、今年度中に対策…知財戦略本部 : 経済ニュース : マネー・経済 : YOMIURI ONLINE(読売新聞)
http://www.yomiuri.co.jp/atmoney/news/20120529-OYT1T00393.htm

各国の特許DB閲覧をまとめて検索へ 政府が知財推進計画を策定 - MSN産経ニュース
http://sankei.jp.msn.com/politics/news/120529/plc1205291042知的財産戦略本部会合
議事次第0005-n1.htm

ニュース - 知的財産推進計画2012を策定、工程表に沿って担当府省が施策を実施へ:ITpro
http://itpro.nikkeibp.co.jp/article/NEWS/20120529/399326/

決定された「知的財産推進計画2012」の内容は正式にはまだ発表されていな*1いが、本日以下委細された知的財産戦略本部会合の議事次第に案が掲載されている。

知的財産戦略本部-開催状況-
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/titeki2/120529/gijisidai.html

これまでの経緯や報道からすると、この案が大きく修正された可能性は低いと思う。
とりあえず案に目を通してみたが、著作権関連で気をつけなければならない事項が散見された。
その気になる事項をピックアップする。

なお、今回目を通したのは「知的財産推進計画2012」(案)と「知的財産推進計画2012」工程表の2つのファイルだけであるので、その点はご留意いただきたい。

「知的財産推進計画2012」(案)
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/titeki2/120529/siryou01-2.pdf

「知的財産推進計画2012」工程表
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/titeki2/120529/siryou01-2-fuhyou.pdf

著作権保護期間の延長

著作権関連の事項は「知的財産推進計画2012」(案)の25ページ以降の「日本を元気にするコンテンツ総合戦略 」に盛り込まれている。
その中で「? コンテンツの世界展開を支えるデジタル・ネットワーク社会の基盤整備を進める。」とし、「(イ)デジタル化・ネットワーク化に対応した著作権制度の整備及びコンテンツ侵害への対応の強化」の【施策例】として一番最初にでてくるのが次のもの。

・社会経済の変化に柔軟に対応した著作権制度の整備
デジタル化・ネットワーク化の進展に機敏に対応するとともに、知的財産の保護・活用に関する国際的な交渉の状況を踏まえつつ、著作権保護期間の延長、間接侵害に係る差止請求範囲の明確化、私的録音録画補償金制度の見直しを含め、著作権制度上の課題について検討を行い、必要な措置を講じる。(短期・中期)(文部科学省

なんと、著作権保護期間の延長」が盛り込まれているのだ。

「知的財産推進計画2012」工程表の方を見ると、2012年度と2013年度で

文化審議回著作権分科会における検討を再開し、一定の結論を得る。

とし、2014年度と2015年度で

左記の結論を踏まえ、必要な措置を実施。

とある。

この工程表通りに進んだとしたら、遅くとも2015年に法改正がなされ、2016年に保護期間が延長されてしまうのだ。

もちろん、私は著作権保護期間の延長には反対である。
著作権保護期間の延長への反対の声をしっかりとあげなければならないと思う。

私的録音録画補償金の見直し

この項目では、私的録音録画補償金の見直しもあげられている。
工程表の方では、2012年度に

経済産業省文部科学省による検討会において、関係者の合意形成に向けた検討を実施し、当該検討会の結果を踏まえ、補償金制度の見直しに関する合意形成を目指す。

とし、2013年度に

左記の検討会において補償金制度の関係者の合意を得た上で、文化審議会著作権分科会での検討を実施。

とある。

問題は、経産省文科省による検討会で合意する関係者だ。
そこに利用者は当然含まれなければならない。
権利者とメーカーだけが関係者では無い。利用者こそが一番の関係者であることを主張しておく。

出版者への権利付与

次に「(ロ)電子書籍の本格的な市場形成及びコンテンツのアーカイブ化の推進 」の所。
ここでは

電子書籍の本格的な市場形成
電子書籍の流通促進と出版物に係る権利侵害への対応を図るため、「出版者への権利付与」に関し、電子書籍市場に与える影響や法制面における課題について検証・検討し、必要な措置を実施する。(短期)(文部科学省

「出版者への権利付与」が盛り込まれている。
工程表では2012年度と2013年度で検討することとなっている。

さらにこの項目では

株式会社出版デジタル機構の創設を始め、ボーンデジタルを含む電子書籍市場の進展を踏まえ、民間事業者による協同の取組に対する支援を通じて、著作物のデジタル化やコンテンツ流通の一層の促進を図る。(短期・中期)(総務省経済産業省

出版デジタル機構への支援まで盛り込まれている。

クラウドサービスのための環境整備

「(ハ)新ビジネス・新市場の創出及び人財育成のための環境の整備 」のところでは

クラウド型サービスのための環境整備
クラウド型サービスの環境整備については、スマートフォンタブレット端末といった複数の情報端末での同一コンテンツの利用が進んでいることも踏まえ、新ビジネス・新市場の創出の観点を含め、著作権制度上の私的複製や間接侵害の範囲の明確化とも関連した法的リスクの解消を含む課題の整理・検討を行い、必要な措置を実施する。(短期)(文部科学省総務省

とある。これは基本的には歓迎すべきことだ。
しかし、工程表の記述を読むと、懸念が大きくなる。
工程表では2012年度と2013年度で

クラウドコンピューティング著作権に関する調査研究」報告書(平成23年文化庁委託事業)の内容も踏まえ、文化審議会著作権分科会法制問題小委員会における私的使用のための複製の権利制限に係る課題や間接侵害をはじめとする著作権に係る法的リスクの議論の際に、クラウドコンピューティングを念頭に置きつつ検討を行い、必要な措置を実施。

とある。しかし「クラウドコンピューティング著作権に関する調査研究」報告書は

直ちに「クラウドサービス」固有の問題として著作権法の改正が必要であるとは認められないものと考える。

と結論づけた報告書である。

クラウドコンピューティング著作権に関する調査研究報告書(PDF形式(664KB))
http://www.bunka.go.jp/chosakuken/singikai/housei/h23_shiho_06/pdf/shiryo_4.pdf

はてなブックマーク - 著作権問題「発生せず」 文化庁が報告書  :日本経済新聞
http://b.hatena.ne.jp/entry/www.nikkei.com/access/article/g=9695999693819481E0E0E2E0978DE0E0E2E0E0E2E3E09C9CEAE2E2E2

この報告書の内容を踏まえると、結局法改正は必要なしという結論になってしまうのではないかと、懸念する。


ざっと見た感じでは上記の点が非常に気になるところだ。

まだ全部を精査して読んだ訳では無いので、他にも様々な問題点がまだあるかもしれないが、今回の「知的財産推進計画2012」は、相当注意しなければならない代物だと思う。

*1:追記:このエントリーを書いた後でFacebook経由で教えていただいたが、(案)のとれた決定版は http://www.kantei.go.jp/jp/noda/actions/201205/29chiteki.html からのリンクで http://www.kantei.go.jp/jp/kakugikettei/2012/__icsFiles/afieldfile/2012/05/29/2012keikaku.pdf に掲載されていました。精査に比較はしていませんが、以下で言及した箇所には変更は無いようです。