日本版フェアユースへのパブコメの結果を読んで

一週間以上前に、日本版フェアユースについてのパブコメの結果が公表されている。

文化庁 | 文化審議会著作権分科会法制問題小委員会「権利制限の一般規定に関する中間まとめ」に関する意見募集の結果について
http://www.bunka.go.jp/oshirase_koubo_saiyou/2010/tyosakuken_iinkai_ikenbosyu_02.html

私は、7月22日に開催された法制問題小委員会の配布資料のPDFをダウンロードして読んでみた。

文化庁 | 著作権 | 著作権制度に関する情報 | 文化審議会著作権分科会 | 法制問題小委員会 | 文化審議会著作権分科会法制問題小委員会(第6回)議事録
http://www.bunka.go.jp/chosakuken/singikai/housei/h22_shiho_06/gijiyoshi.html

文化審議会著作権分科会法制問題小委員会 権利制限の一般規定に関する 中間まとめ(平成22年4月)」に対する意見募集の結果(PDF形式(1.04MB))
http://www.bunka.go.jp/chosakuken/singikai/housei/h22_shiho_06/pdf/shiryo_2_2.pdf

日本版フェアユースの導入に賛成・反対双方から意見が出されているが、特に反対側と思われるの団体を意見を中心に、ざっと目を通して見た。
そこで感じたことと、目を引いた意見について述べたいと思う。

フェアユースの導入反対の意見として目についたのが、個別規定で事足りるという意見だ。
もちろん、個別規定で全てカバーできるのであれば、フェアユースが無くても大丈夫だと思うが、現実的にはそうではないからフェアユースへの要望が高まっているのだが。
そんな中で目を引いたのが、日本雑誌協会の意見。
上記PDFの17頁(ノンブルでは18頁)に掲載されている。

■個別規定の迅速な導入こそ
本当に「著作物の通常の利用を妨げず、権利者の正当な利益を不当に害しない利用」に対する委縮効果を減らすためならば、個別規定導入のスピードアップを図ることにより明確性を確保した方が、権利者・利用者双方にとって有益である。

この意見を出した以上、フェアユースが導入されるか否かにかかわらず、日本雑誌協会は個別規定導入のスピードアップを図らなければならないと思うし、個別規定導入について協力的にならざるを得なくなったと私は思う。

他にも、個別の事例について個別規定導入で事足りると言う意見を出した団体はいくつもある。
それらの団体は、少なくともその事例については、フェアユースが導入されるか否かにかかわらず、個別規定の導入に尽力する責任が生じたと私は考える。

次に、フェアユースの導入に反対のあまり、ここまで言い切っていいの? と思ったのが次の意見。
社団法人日本映像ソフト協会の意見だが、「写り込み」について次のように言い切っている。
上記PDFの35頁(ノンブルでは34頁)

しかしながら、商業用に制作される映画では他人の著作物が写り込まないようにしており、「写り込み」について権利制限規定を設ける必要はありません。

それゆえ、「写り込み」であろうと「写し込み」であろうと、著作権者は自己の著作物が写り込んだ作品の利用を差し止めることができるべきであり、他人の著作物を写り込ませた著作物の著作者は、写り込んだ他人の著作物が表示されないようにトリミングを行う等の措置を講じるべきです。

他人事ながら、ここまで言ってしまって大丈夫なのだろうか、と思ってしまう。
例えば、民放連は36頁(ノンブルでは35頁)で

・現行法下では「形式的権利侵害行為」に該当する可能性があり得る「写り込み」がA類型によって明確に適法とされることは、放送番組の製作上、望ましい面もある。

と述べているし、日本放送協会NHK)も37頁(ノンブルでは36頁)で

特に、第4章1(2)で述べられている写り込みなどの付随的に生ずる著作物の利用については、放送番組の制作にあたっても、現行法上の権利制限規定で対応できないケースもあり判断に迷うことがあったため、このような利用が認められることは、報道の自由や知る権利に応える観点からも意義あることだと考えられる。

と述べている。
放送と映画とは違う、と言うのかもしれないが、放送局が映画を制作することもあるし、放送番組をDVD化することも多い。そのような状況下で、

しかしながら、商業用に制作される映画では他人の著作物が写り込まないようにしており、「写り込み」について権利制限規定を設ける必要はありません。

と言い切っている事に、本当に大丈夫なの? と聞きたくなる。


最後に、こんなところがフェアユースの導入に賛成しているのか、というところがあった。

一つは社団法人日本印刷産業連合会。
上記PDFの66頁(ノンブルでは65頁)に掲載されている。

権利制限の一般規定の導入について
意見要旨
この度「権利制限の一般規定に関する中間まとめ」(以下「中間まとめ」という)においては、Aの類型、Bの類型およびCの類型の利用行為を権利制限の対象とする権利制限の一般規定を導入することが適当との考えが示された。当連合会は、これまで著作物の公正な利用を包括的に許容し得る権利制限の一般規定(日本版フェアユース規定)の導入を求めており、中間まとめにおいて利用行為の対象は限定されてはいるものの、権利制限の一般規定の導入が適当との考え方が示されたことは評価すべきと考える。また、特にAの類型については、印刷物や画像・映像を制作する上で、実務上頻繁に起こりうる利用行為であるため、権利制限の一般規定の早急な導入が望まれる。
趣旨説明
印刷会社においては、顧客からの受注に基づき、チラシやカタログ等の紙媒体のみならずウェブサイト等のデジタル媒体も含んだ各種媒体について、企画段階から制作する業務も多く、実際にそれらの媒体に利用する写真等において第三者の著作物の写り込みが問題となる場面が起きている(例:東京高判平成14年2月18日<書と照明器具カタログ事件>)。
写真等の背景に写り込んだ著作物については、その権利処理に実務上の困難が伴う場合も多く、コンテンツの円滑な流通促進を推進する上でも、権利者の利益を不当に害さないと認められる利用に関しては、権利制限の一般規定の早急な導入を要請する。

確かに印刷会社の場合、依頼に基づいて印刷しているものが他者の著作権を侵害しているケースも考えられるわけで、フェアユースがあった方が望ましいと考えるのも理解できる。
自分の考えがそこまで及んでいなかっただけのことではあるが、印刷会社がフェアユースの導入に積極的であることは、自分にとっては新たな発見だった。

もう一つは日本放送協会。つまりNHK
上記PDFの37頁(ノンブルでは36頁)を始め、複数箇所に次の意見が掲載されている。

デジタル化、ネットワーク化が急速に進む中、著作物等の新たな利用方法が生まれたり、利用者が意図していないにもかかわらず結果的に著作物を利用してしまうなどの例が見られるようになってきている。
現行の著作権法が、このような社会状況の変化に必ずしも迅速に対応できていないことや、いわゆる「委縮効果」により利用を控えてしまい著作物の利用が円滑に進んでいないことなどを理由に一般規定導入の要望も強いことを考慮すると、今回の中間まとめで示されたAからCの利用行為を権利制限する一般規定を導入することに一定の意義は認められる。

NHKがこのようなフェアユースの導入に前向きな意見を出したことに、正直驚いた。
放送局だから権利保護の主張をするに違いないと自分が思っていたことは、偏見だったのかもしれないが、NHKがこのような意見を出したことはとても大きいと思う。


パブコメを受けて、法制問題小委員会では、さらなるヒアリングを行うとのことで、まだまだ先は見えない状況であると言っていいだろう。
今後も、注目していくつもりだ。