長尾真氏の「電子図書館」を再読した

電子図書館 (岩波科学ライブラリー)

電子図書館 (岩波科学ライブラリー)

岡本真さんのこのエントリーを読んで読み返してみたくなった。

2009-08-27(Thu): なぜ、岩波書店は長尾真著『電子図書館』(岩波書店、1994年)を復刊しないのだろうか - ACADEMIC RESOURCE GUIDE (ARG) - ブログ版
http://d.hatena.ne.jp/arg/20090829/1251531818

この本は出た当時速攻で買って読んだんだけど、部屋の中で行方不明になっていたが、ちょっと探したら本棚の奥から出てきたので読み返してみた。


岩波科学ライブラリーのレーベルなので、扱いとしては入門書、ページ数も125頁と薄いので、すぐ読めた。


15年前に出た本なので、時代を感じさせる部分は多い。
例えば、インターネットの説明に1章割いているけど、World Wide Webは出てこなくて、電子メールやファイルトランスファー、リモートログインが中心、WAISやgopherが出てくる程度だったり、「マルチメディア」で1章を割いていたり。
1994年ってそういう時代だったな、って思い出した。


そういう時代背景なので、「電子図書館」とは言え、全文データベースやファクトデータベースをベースに構想されているような感じだ。だから、今の視点で読んだときには違和感を感じる。


じゃあ、この本はもう古くて読み返す意味は無いかと言えばそうではない。当時の視点だからこその再発見もある。


例えば、最近は語られることが少なくなった、文章の構造化みたいな話にある程度重きが置かれていたのは興味深い。
そういえば、SGMLはどこにいったのだろうか?
同様に、目次情報に重きを置いている点も面白い。*1
書籍のデータベースで、目次情報をきちんと収録しているデータベースは、少なくとも国内には無い。
日外のBookに収録されている目次情報は簡易的なものだし、版元ドットコムは目次情報も収載できるようになっているけど、出版社がどこまで収載するかを決めているので、目次情報の全くないデータの方が多数を占めている状況だ。
ここら辺の話は、最近の電子図書館電子書籍の中では出てくることは少ない。
そういう視点を組み込むことで、新たな展開も見えてくるのではないかと思う。


それから、そして長尾氏が今打ち出している国会図書館電子図書館構想の片鱗は本書のあちこちに盛り込まれている。
特に第7章の「将来の姿と課題」は、現長尾構想のプロトタイプとも言えるものだろう。
長尾構想について賛成の立場の人も、反対の立場の人も、まず本書を読んで欲しい。
その上で、それぞれ賛成なり反対なりの意見を出して欲しい。
本書を読まずして、長尾構想について語るべきでは無いと思う。


残念ながら本書は現在「品切重版未定」だそうだ。
私は15年前に買っていたので、読み返すことができたが、持っていない人は図書館などで探すしか無いという状況だ。
そこで思い出したのが復刊ドットコム
復刊リクエストを投票できるサイトで、100票の投票が集まったものの復刊交渉を行ってくれるところだ。*2
ということで、リクエストページを作りました。

電子図書館 長尾真  復刊リクエスト投票
http://www.fukkan.com/fk/VoteDetail?no=47816

本書を読んでみたいと言う人は、是非ともリクエスト投票してください。

*1:目次情報に基づく図書検索について、長尾氏が書いた論文は、電子図書館 (岩波科学ライブラリー)と同年に出た研究情報ネットワーク論に収録されている。こちらも併せて読んでいただきたい。

*2:復刊ドットコムについては復刊ドットコム奮戦記-マニアの熱意がつくる新しいネットビジネスを読んでください