「電子出版学入門」

湯浅俊彦さんの新刊「電子出版学入門」を読んだ。

電子出版学入門―出版メディアのデジタル化と紙の本のゆくえ (本の未来を考える=出版メディアパル No. 17)

電子出版学入門―出版メディアのデジタル化と紙の本のゆくえ (本の未来を考える=出版メディアパル No. 17)

まだアマゾンにはデータが入っていないようなので、bk1と出版社の詳細ページへのリンクを載せる。

オンライン書店ビーケーワン:電子出版学入門 出版メディアのデジタル化と紙の本のゆくえ 本の未来を考える=出版メディアパル No.17
http://www.bk1.jp/product/03138548

出版メディアパルNo.17 『電子出版学入門』 ―出版メディアのデジタル化と紙の本のゆくえ
http://www.murapal.com/books09/mp017.html

タイトルに「電子出版学」とあるが、電子出版についてその歴史から現状までの詳細なレポートになっていて、とても興味深く読んだ。
資料編として巻末に掲載されている「電子出版年表1985〜2009年」も詳細で、これを眺めているだけでも興味深い。


電子出版というと、電子辞書だとか、電子書籍端末だとか、ケータイ小説などだけで語られることが多いが、湯浅さんは電子ジャーナルの動向にもちゃんと目を配っていて、好感が持てる。
湯浅さんは9年前に出したデジタル時代の出版メディアで既に出版を語る上で電子ジャーナルについても言及していた。

デジタル時代の出版メディア

デジタル時代の出版メディア

学術情報の分野では、今は電子ジャーナルを抜きに電子出版を語ることはできないと思うが、そこまで言及している電子出版論は意外と少ない。商業出版から電子ジャーナルまでを視野に入れて電子出版を語ることをできる人は、とても貴重だと思う。


また、読んでいて「にやり」とする箇所もいくつかあった。
例えば、いわゆる「活字文化」についての言及の箇所や、今は無きe-NOVELSを「魔法のiらんど」の「魔法の図書館」の先駆者的存在として紹介している箇所などは、読んでいて刺激的だった。


一方でもう少し言及して欲しいと思うこともいくつかある。
例えば、商業ベースのネット配信の電子書籍のサービスとして、電子文庫パブリ
については1項目を使って記述しているが、それよりも先駆的な存在である電子書店パピレスについては、コンテンツプロバイダーのサービスの一つとして取り上げられているだけだ。
パブリはパピレスへの防衛として出版社が始めたサービスであるが、それを考えるとパブリよりもパピレスの方が電子出版史上で果たした役割は大きいの出はないかと思う。
当事者と思われる方が書いたこの文献を読んでいるので、私はそう思ってしまう。

長谷川 秀記. “ある電子書店主の思い出話”. 情報管理. Vol. 46, No. 4, (2003), 266-268 .
http://www.jstage.jst.go.jp/article/johokanri/46/4/46_266/_article/-char/ja


それから、日本の電子ジャーナルの代表選手であるJ-STAGEについて触れられていないのも、残念だ。
医学書院の「Medical Finder」を取り上げているが、J-STAGEの重要性はMedical Finderの比ではないと私は思う。
国内の電子ジャーナルでは、出版社系のものはまだまだ始まったばかりで、J-STAGEやCiNii(旧NACSIS-ELS)といった学協会系の方が先を行っていると私は思う。その点で学協会系電子ジャーナルの言及がほとんど無かったのは残念だ。


しかし、それらは些細なことかもしれない。
ケータイ小説から電子ジャーナルまでを視野に入れた「電子出版学」が構築されつつあることは、やはりすごいことだと思う。
本書は電子出版に関心のある方には是非とも読んで欲しいと思う。