think Cの共同提言に賛同できないわけ

著作権保護期間の延長問題を考えるフォーラム(think C)が「保護期間延長問題と創作・流通促進に関する共同提言」を発表しています。

著作権保護期間の延長問題を考えるフォーラム - thinkcopyright.org | 保護期間延長問題と創作・流通促進に関する共同提言
http://thinkcopyright.org/proposal20081030.html

私はthink Cの発起人に名を連ねさせていただいているが、この共同提言の共同提言者には加わりませんでした。
私にとって、この共同提言の中に、どうしても賛同できない、いや反対せざるを得ない内容が含まれていたからです。


提言の骨子は以下の通り。

(提言骨子)
1. 著作権保護期間は延長すべきでない

2. 日本版「フェアユース」規定を速やかに導入する

3. 流通・利用促進策を進める(公的報償システム、データベースの相互接続)

4. 著作権だけに依存しない創作支援制度を創設・強化する

この提言の1.は全面的に賛成です。4.も問題は無い。

私が賛同できない内容は2.と3.に含まれています。

2.に関して、日本版「フェアユース」規定の導入に関しては、基本的には賛成です。
しかし、この共同提言では「フェアユース」の導入とともに、「公的補償」の導入の検討を提言しています。

また、この「フェアユース」規定や従来の個別規定により、(特に図書館・教育・福祉関連等の)公益目的で作品が利用される場合に限り、創作者や著作権者に対して利用行為の結果生じた社会的な利益を還流するための仕組みを、フェアユース規定導入と平行して検討すべきである。


(共同提言13ページ)
http://thinkcopyright.org/thinkc_proposal20081030.pdf

そして、3.ではその「公的補償システム」を提言しています。

第3節 「PCS(公的報償システム)」の提案 まず、著作物の多様な利用を促進することと、創作者が安定して収入を得ることを両立させるための施策として、「PCS(Public Compensation System、公的報償システム)」の構築、及びそれを支える著作権情報データベースの整備を提案する。 著作権者の意思に基づいてPCSに登録された著作物は、主にインターネット上における非営利的な利用を中心とした一定の自由利用に供される。一方その対価として、著作権者に対しては、サンプリング等の手段によって調査される著作物の利用量や態様に応じて、公的資金等に基づく一定の報償金が付与される。
また、当システムについては、第2章で述べた「フェアユース」規定で認められた利用行為の結果生じる公共的な利益を、著作権者に還流するための仕組みとしての位置付けも期待されるため、両施策は相互に補完関係をもって設計されることが望ましい。


(共同提言15〜16ページ)
http://thinkcopyright.org/thinkc_proposal20081030.pdf

私は「公的補償システム」には反対です。
特に、フェアユースの範囲内での利用に対しては「公的補償」は絶対に反対です。


私は、著作物というものは、公表された時点で「公的」な性格を帯びるものだと思っています。
公表された著作物は、もちろん著作権者の権利は及びますが、著作権者であっても権利の及ばない行為というものがあります。
権利制限規定によって自由に利用することのできる範囲がありますし、それ以前に読む、聴く、鑑賞する、遊ぶなど行為には、権利は及びません。「読む、聴く、鑑賞する、遊ぶなど行為」自体は自由なのです。
フェアユースが導入されたら、その範囲での利用も自由なのです。
著作物を公表した以上は、その自由に利用できる範囲内での利用はされるものだ、ということを大前提にすべきだと思います。
なので、その範囲内での利用に対して、何ら補償をする必要は無いと私は考えます。


特に、共同提言13ページに書かれている箇所では、図書館での利用を対象にすることが明記されていて、それは一部の作家が要望している「公共貸与権」(公貸権)に直結する内容です。
私は「公共貸与権」には反対の立場でもあります。


従いまして「公的補償システム」がセットとなっているthink Cの共同提言には反対します。
特に、「フェアユース」と「公的補償システム」をセットにしてもらっては困ります。
来年、文化審議会著作権分科会で「フェアユース」規定の検討が行われると思いますが、そのときに「フェアユース」と「公的補償システム」がセットで検討されてしまっては困ります。
個別の提言には賛同できるところはありますが、やはりパッケージとしてのthink Cの共同提言には反対します。


なお、パッケージとしての「共同提言」には反対ですが、その中に盛り込まれている

には賛成であることは、明記しておきます。

追記

このエントリの背景についての補足があります。
下記エントリも併せてお読みください。

think Cの共同提言についての補足 - Copy & Copyright Diary
http://d.hatena.ne.jp/copyright/20081106/p1