パブリックコメントの意義

興味深い記事があった。

asahi.com:国民9割「パブリックコメントってなに?」 - 政治
http://www.asahi.com/politics/update/0625/TKY200806250041.html

この記事の元になった内閣府の調査結果は見ていないのだが、まあそんなものだろう、という内容。
自分は著作権関連で文化庁が行ったパブリックコメント*1と、知財戦略本部のものに何回か意見を提出したことがあるが、それ以外には出したことがない。
それ以外では、10年近く前、とある学会の理事をやっていたときに、その学会に関連した分野のパブコメが行われていて、学会として意見を出す必要があるのではないか、と理事会で議論になったが、募集期間内で対応することが難しい、ということになったことがある程度だ。
正直、自分がこれまで出した意見も、本当に自分が主張したいことをちゃんと書けたかどうか、自身は無い。
意見募集の対象となっている報告書などをちゃんと読むのも結構大変だし、募集期間の数週間〜1ヶ月はすぐ経ってしまう。
だから、意見が寄せられないものがあるのも、よく分かる。

記事にも書かれているように、「通過儀礼化している」のだろう。

自分が最初に意見を出したのは2003年末に文化庁が行った意見募集で、音楽CDの還流防止措置や書籍・雑誌への貸与権の適用などが盛り込まれた「文化審議会著作権分科会報告書(案)」に対するものだ。
この意見募集については、文化庁が出版業界に貸与権賛成の意見を提出するように働きかけたことを、作家の佐野眞一氏がプレジデント誌上で指摘した。その記事を読んで書いたのが、このエントリ。

パブリックコメント - Copy & Copyright Diary
http://d.hatena.ne.jp/copyright/20040329/p1

プレジデント誌に書かれた記事は後に加筆されて、だれが「本」を殺すのか〈下〉 (新潮文庫)に収録されている。

だれが「本」を殺すのか〈下〉 (新潮文庫)

だれが「本」を殺すのか〈下〉 (新潮文庫)

この件に対しては、当時id:kanryoさんが次のようなエントリを書かれていて、パブリックコメントがどのようなものかを窺うことができ、興味深い。

[役所]パブリックコメントの話 - 霞が関官僚日記
http://d.hatena.ne.jp/kanryo/20040330#p1


また、昨年ダウンロード違法化を盛り込んだ私的録音録画小委員会の「中間整理(案)」についての意見募集について、MiAUがひな形を提供し、意見の提出を呼びかけ、7000通を超える意見が出されたことがあったが、その時にコピペの意見を大量に送りつけることは逆効果ではないか、という批判ががあったと記憶している。
岩戸佐智夫氏は著作権という魔物 (アスキー新書 65)の中で、MiAUの戦略ミスだと述べている。
しかし、上記の佐野眞一氏の記述を信じるなら、文化庁自体がパブコメに動員をかけていたし、このときの意見募集の結果を文化庁文化審議会著作権分科会に報告した時には、賛成の意見がこんなにたくさんありました、という数字のみの報告を行っている。

文化審議会著作権分科会(第12回)−配布資料4−2:「文化審議会著作権分科会報告書(案)」に関する意見募集の結果
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/bunka/gijiroku/010/04011501/009.htm

このときに提出された意見のコピーを閲覧する機会があったが、その時の賛成の意見にもコピペのものが多数あったことを記憶している。
そのことを踏まえれば、MiAUに対する批判というのは、表面的なことしか見ていないように、私には思える。


昨年の意見募集でダウンロード違法化に関しては、7000を超える反対意見があったものの、その反対意見を聞き入れることはなかった。
しかし、一方で同じく昨年、法制問題小委員会の「中間まとめ(案)」についての意見募集が行われたが、その「中間まとめ(案)」には薬事関係やネットオークション関係の権利制限についても盛り込まれていたが、この意見募集で権利制限とすべきではないとの意見があったために、権利制限をすべきだという記述にはならなかった。

文化審議会 著作権分科会 法制問題小委員会(第10回)議事録・配付資料 [資料4]−文部科学省
意見募集の結果を受けた主な争点について
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/bunka/gijiroku/013/08011801/004.htm


これらのこと考えると、少なくとも文化庁は、意見募集を自分たちの都合のいいように利用していると、私には思える。
儀式と言うよりも、もっとたちが悪い。


しかし、それでも私は、機会があれば今後も意見を出していきたいと思う。
意見を出しても無駄だ、と思わない訳ではない。
しかし、意見を出せば、その意見があったと言うことは事実として残る。
ダウンロード違法化に反対の意見が7000以上集まったという事実は残る。
意見を出さなければ、何の反対も無かった、ということでそのまますんなり通ってしまうが、反対意見が出てきたときに、それに対して(その意見を聞き入れないと言うことも含めて)何らかの対応をせざるを得なくなるし、その対応をチェックすることができる。
いや、それよりも自分が意見を出したい、と言うことが一番大きい。
自己満足かもしれないが、自分の思っていることを文化庁にぶつけたいのだ。
だから、これからも、意見募集に対して、意見を出していきたい。

*1:正確には、意見募集。行政手続法に基づいたものがパブリックコメントで、文化庁が行っているのは、行政手続法に基づいたものではなく、文化庁が自主的に行っている意見募集という位置づけ