雑誌を除外したら意味がない

数字を比較してみても、意味の無い数字であったら、そこには意味はない。
この記事を読んで思ったのは、なんで意味のない数字を比較しているのだろうか、ということ。

<データ読解>文系優位、天理大トップ――学生当たりの大学蔵書数 | 日経ネット関西版
http://www.nikkei.co.jp/kansai/news/news003658.html

この記事では、日本図書館協会の統計資料を基に、近畿地方大学図書館の、学生一人当たりの蔵書冊数を算出してランキングしている。
問題なのは

蔵書数に雑誌は含まれない。

ということ。
記事中にも

「最先端の論文が海外の科学誌に掲載されることが多く、理工系学部の図書館は雑誌を多く買う」(京大)

とあるが、理工学系・医学系では、本(学術書)を読むことは非常に少なく、研究者は学術雑誌に掲載された論文、特に英語論文を中心に読んでいる。理工学分野・医学分野の学術情報の中心は、本(理工学書医学書)ではなくて、学術雑誌に掲載される学術論文が中心だ。
だから、雑誌を除いた蔵書数を比較しても意味はないし、理系よりも文系の方が優位だと結論づけることはできない。


比較するのであれば、資料購入費の方が意味があるのではないかと思う。
そうすれば、自分の感覚では、理工学系・医学系の大学や、それらの学部を持つ総合大学の方が上位に来ると思う。

理工学系・医学系の学術雑誌(主に海外の出版社や学協会が発行しているもの)は非常に高額だ。自分が数年前に企業内の専門図書館の業務を担当していた当時で、年間購読料が10万円を超えるのは当たり前、年間購読料が数十万の雑誌も多く、中には年間購読料が100万円以上の雑誌もあった。そして、それが毎年8%近く値上がりをしている。単純掲載すると、購読料は10年で倍になる。*1
さらに、ここ10年の間で紙から電子媒体への移行が進み、電子ジャーナルの契約料も莫大なものになってきている。

これらの要素を考慮に入れない、本(学術書)だけの蔵書「冊数」を比較することに意味があるとは思えない。


また、記事の最後の方に

実質的な「大学全入時代」といわれるなか、各大学は注目を集める研究に予算を重点的に投入し、書籍購入費を抑える傾向にあるとされる。

とあるが、学術雑誌を含まない「書籍」の購入費が抑えられているということであるなら、海外の学術雑誌の購読料高騰や電子ジャーナルの契約費用に押されているためではないだろうか。
人文社会学系の出版社やそれらに携わっている人たちが、人文書が売れない、良書が売れない、大学図書館が本を買わなくなった、と言う発言をすることがあるが、大学図書館にとっては、人文社会学系の専門書を購入するよりも海外の学術雑誌を購読することや電子ジャーナルの契約することの方が優先順位が高いと判断されているからじゃないだろうか。
数年前まで企業内専門図書館の業務を担当していたものの実感ではそう思う。

パブリッシュ・オア・ペリッシュ―科学者の発表倫理

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学術情報流通とオープンアクセス

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*1:これがいわゆる「シリアルズ・クライシス」と呼ばれるもの