過去の著作物等の保護と利用に関する小委員会議事録を読む−公的アーカイブ分野

公的アーカイブ分野では、国立国会図書館の田中久徳氏からヒアリングを行っています。

文化審議会 著作権分科会 過去の著作物等の保護と利用に関する小委員会(第2回)議事録・配付資料−文部科学省
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/bunka/gijiroku/021/07050102.htm

配布資料
国立国会図書館
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/bunka/gijiroku/021/07050102/009.htm

田中久徳氏の発言

国会図書館近代デジタルライブラリーの事業に基づいて意見を述べています。

 一番大きいものは、「近代デジタルライブラリー」という、明治時代に刊行されたすべての図書について、デジタル化をするという事業の中で権利の調査を行いました。ざっくりとした数字ですけれども、全体の7割にあたる5万人強の方の権利が不明であったということが結論としてございまして、その方々について決まっているルールに従って様々な調査を行いました。かかった経費は、本にすると1冊当たり数千円、1名の調査についてもやはり数千円のお金がかかっております。全体の件数が多いものですから、総額では2億6,000万円近いお金がかかっております。

配付資料の別添資料別紙2で、具体的な許諾作業の流れを説明しています。

別紙2 「近代デジタルライブラリー」における著作権許諾作業(PDF:75KB)
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/bunka/gijiroku/021/07050102/009/002.pdf

許諾作業にはこれだけの手間と費用がかかることがよく分かります。
著作権者の調査だけで、2億6000万円もの費用がかかっているということは、事実として認識しておく必要があると思います。
これだけの費用がかかるとなると、民間で権利処理を行ってアーカイブ活動を行うことは、非常に難しいかと思います。(もちろん、民間で行った場合、もっと効率的に行える可能性もありますが)まさに、国会図書館だからこそ行える事業であり、同時に国会図書館がやらなければならない事業であることを再認識しました。

続いて、保存に関わる事項でも意見を述べています。

著作権法の中で、図書館は保存を目的にする場合には、一定の権利制限をかけられるということは規定して頂いておりますけれども、その枠の中だけでデジタル変換を行おうとしますと、今の法律上では色々な問題がある。資料を保存して、それを私どものほうに来て頂いて、例えば複製したものを見て頂く。それから、印刷物をプリントアウトして提供する。その部分も権利者の許諾を頂かなければできないのかどうかというのは、私どものような機関にとりましては大変重要な問題として、直面しているということでございます。そういったことについても御検討頂ければと思っております。

この短い説明と別添資料だけでは、なぜ権利者の許諾が必要なのか分かりません。もう少し詳しく説明していただきたいところです。
ただ、保存してあってもそれを利用者が利用できないという状況では、保存の為の保存でしかありません。もちろんそれも必要ではありますが、やはり利用されることを前提とした保存ができるようにしてもらわないと、ただ単に死蔵が増えるだけだと思います。

そして、保護期間の延長については、賛成・反対は述べていませんが

ただ保護期間が延長されるとしますと、今直面している問題が更に深刻になることだけは間違いないことでございまして、権利者の調査ということでも更に20年延長されたとしますと、ほとんど分からなくなってしまうという状況が起こってくるということは言えると思います。ですから、そういった制度的な検討をセットでやって頂くということが、どうしても必要かなということは思っております。

と、延長だけを行うことについては、慎重なスタンスのようです。

質疑

三田委員からの質問。

例えば権利者の団体やポータルサイトを作るという考えもありまして、実際、死後何十年か経つても財産権として活用されているものについては、そういうデータベースにちゃんとまだ権利がありますよということを表示するとして、著作者の中には著作権の存続期間がまだあっても、アーカイブに関してはオーケーだというような方もいらっしゃるだろうと思います。そういう意思表示も含めたデータベースを作った上で、そのデータベースに載っていない方について、例えば何らかの権利制限をするとか、現在の裁定制度よりも簡易な裁定制度を新しく作るとか、利用のしやすいシステムを作るということであれば、必ずしも国会図書館の保護期間*1を70年に延長することが、国会図書館の活動の妨げになるということではないのではないかなと思うんですけれども、いかがでしょうか。

音楽配信分野の時にも書きましたが、できていないものは担保にはなりません。少なくとも、具体的な仕組み、どのようにして構築・運営するか等が明らかになってからでないと、それでどれだけの問題が解決できるかを検討できません。
このような質問には全く意味が無いと思います。

その後の国会図書館の動向

この小委員会の後、国会図書館は延長問題に関わる2つの動きがありました。
6月27日付けで、近代デジタルライブラリーに大正期の図書のデータを追加することを発表、そして、7月3日から提供を開始しています。

図書館に関する調査・研究のページ “Current Awareness Portal” - E667 (No.109) - 近代デジタルライブラリー,大正時代の図書を提供開始 - 2007年発行(E588〜 ) - カレントアウェアネス -E (月2回刊)
http://www.dap.ndl.go.jp/ca/modules/cae/item.php?itemid=684

図書館に関する調査・研究のページ “Current Awareness Portal” - カレントアウェアネス-R : NDL、近代デジタルライブラリーに大正期の図書を追加 by chojo
http://www.dap.ndl.go.jp/ca/modules/car/index.php?p=3755

近代デジタルライブラリー | 国立国会図書館
http://kindai.ndl.go.jp/index.html

また、6月29日付けで「平成18年度 重点目標と評価」を発表しています。

平成18年度 重点目標と評価 | 国立国会図書館-National Diet Library
http://www.ndl.go.jp/jp/aboutus/vision_h18_emphasis.html

図書館に関する調査・研究のページ “Current Awareness Portal” - カレントアウェアネス-R : NDL、平成18年度の重点目標・サービス基準の評価を公表 by chojo
http://www.dap.ndl.go.jp/ca/modules/car/index.php?p=3763

評価で注目したいのは、重点領域「デジタルアーカイブの構築」の中の重点目標「「近代デジタルライブラリー」のコンテンツとして、大正期刊行図書の大部分を平成21年度までに公開することを目指し、資料の著作権処理を着実に進め、電子化を行う。」の進捗については、「予定より遅延しました」との評価をしていることです。

近代デジタルライブラリー」のコンテンツとして、大正期刊行図書の大部分を平成21年度までに公開することを目指し、資料の著作権処理を着実に進め、電子化を行う。
http://www.ndl.go.jp/jp/aboutus/pdf/vision_h18_emphasis_03.pdf

著作権調査に遅れが生じているとのことです。

*1:原文のママ。「著作権の保護期間」の誤りだと思います。