過去の著作物等の保護と利用に関する小委員会議事録を読む−放送分野

放送分野では、社団法人日本民間放送連盟の池田朋之氏と日本放送協会ライツ・アーカイブスセンターの梶原均氏からヒアリングを行っています。

文化審議会 著作権分科会 過去の著作物等の保護と利用に関する小委員会(第2回)議事録・配付資料−文部科学省
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/bunka/gijiroku/021/07050102.htm

配付資料
社団法人日本民間放送連盟
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/bunka/gijiroku/021/07050102/005.htm

配付資料
日本放送協会ライツ・アーカイブスセンター
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/bunka/gijiroku/021/07050102/006.htm

池田朋之氏の発言

池田氏は主に過去の放送番組の再利用に関連した意見を述べています。
ほぼ配付資料に沿った意見ですが、裁定制度の運用方法の改善については、中々良い指摘をしていると思います。

先般、裁定制度の場合の探索方法について若干改善が図られて、著作権情報センター(CRIC)のホームページに広告を掲載することによって、探索とすると改善されておりますが、これが放送番組に関して申し上げますと、例えば放送番組の中に使用いたしました写真や絵画、また出演者等が分からないといった場合に、これをホームページに掲載するということは、その時点で既に不明の権利者の権利許諾を得なければできないという矛盾が生じております。
(中略)
このように裁定制度の利用を前提として、著作権者、隣接権者等を探索する場合におきましても、ホームページ等の広告掲載において何らかの権利制限をして頂かなければ、実際には実効性がないのではないかと考えている次第でございますので、その点を御検討頂きたいと思っております。

以前、ここでもCRICの「著作権者を捜しています」のページを取り上げたことがあります。

Copy & Copyright Diary - Z会著作権者を探しています。
http://d.hatena.ne.jp/copyright/20061225/p1

この時のケースでは入試問題の著作権者を捜していたのですが、入試問題の文章などを掲載することができず、何処の大学の何年の入試問題の何番目の問題の著作権者を捜している、という形で掲載されていました。
今でのZ会のサイトにはそのページがあります。

著作権者を探しています|Z会
http://www.zkai.co.jp/home/kaisya/copyright3.asp

このような形で、著作権者が捜せるとは思いません。
先日、国税庁のインターネットオークションに、文化庁著作権法違反の可能性があると指摘したとのニュースがありました。

国税庁の公売サイト、著作権法違反?――文化庁が指摘 インターネット-最新ニュース:IT-PLUS
http://it.nikkei.co.jp/internet/news/index.aspx?n=NN003Y345%2030052007

このような指摘を行っている以上、著作権者を捜す際に、その著作物をネットに掲載することを文化庁は認めないでしょうし、そのようなことをしたら、文化庁から裁定がもらえることはできなくなるでしょう。
裁定制度を実効性のあるものにするためには、民放連の要望に応える必要があると思います。

なお、インターネットオークションの関連では、月刊コピライト2007年6月号に掲載された講演録で、北海道大学の田村善之教授が、オークションサイトに著作物のサムネイル画像を掲載する行為は著作権法32条1項の「引用」に該当すると解釈すべきではないかと述べています。

田村善之. 講演録 著作権法32条1項の「引用」法理の現代的意義.月刊コピライト. 2007年6月号, p.2-20, (2007)

梶原均氏の発言

梶原氏は主に著作権処理を行う上での現状の問題を述べています。

権利者は誰なのかといったことが分からないケースがあります。例えば人形劇は、画面には人形しか出てなくて、誰が操演しているのかといったことで分からずに、なかなか権利処理が大変だということがあったりします。

人形劇の操演者については、これまで思い浮かばなかったですが、確かにNHKの人形劇は私も子供の頃に見ていました。このあたりをきちんと権利処理するのは、とても大変ではないかと思います。

これまで権利者団体のお話があったわけですが、ノンメンバーの方とか、そもそも権利者団体がない分野の著作物を利用しようとする場合に、交渉に時間と労力がかかる上、高額な使用料を要求されて、なかなか著作物の円滑な利用が進まないということがございます。

権利者団体では利用料規定が備わっている場合が多いかと思いますが、個人ごとでの交渉だと利用料は言い値になる場合が多いかと思います。

御参考までに、平成5年放送のドラマ番組の出演者についてのデータを載せております。236人の出演者がいて、権利者団体に所属されている方が152人、個別処理が52人、不明32人ということで、これを一つ一つ権利処理をして不明な方を探してやるということでいうと、交渉に時間と労力がかかって、ビジネス的にもなかなか割に合わないといったようなこともございます。

15年近く前のドラマで、権利者不明が約15%。こういうデータが出てくると、今後の議論の上で参考になると思います。視聴者が見たいと思っていて、放送局も再利用したくても、権利処理がネックになっている実態がよく分かります。

質疑

質疑の個別の発言についてよりも、質疑のやり方について問題があると覆います。
梶原氏に対して椎名委員が質問をしていますが、椎名委員はそのまえに実演家団体を代表して意見を述べています。
ヒアリング対象者として意見を述べて、それと相対する立場のヒアリング対象者に対して質疑の形で意見を述べるというのは、不公平な感じがします。梶原氏は椎名氏がヒアリング対象者として発言した際には意見を述べなかったのですから、特に利害が相対する分野の時は、委員とヒアリング対象者とを兼ねている人は、発言に気をつけるべきだと思います。