裁判所のサイト

出遅れましたが、裁判所のサイトがリニューアルされましたが、次の記述が話題を呼んでいます。

裁判所 | このサイトについて
http://www.courts.go.jp/outline.html

多くの方は、

リンク設定をした場合には,次の連絡先に電話で御連絡ください。

を問題にされていますが、私がこれよりも次の記述を問題にしたいです。

2. 著作権

 当サイトに掲載されいている個々の情報(文字,写真,イラスト等)は,著作権保護の対象となっています。当サイトの内容は,写真・イラスト及び無断転載を禁じる旨の注記がある記事を除き,著作権法上認められている利用を行うことができます。

 また,当サイトの内容について,裁判所に無断で改変を行うことはできません。

この記述にはいくつかの大きな問題があります。
まず、「情報」に著作権があるとしている点。
具体的には、上記の記述の中の

当サイトに掲載されいている個々の情報(文字,写真,イラスト等)は,著作権保護の対象となっています。

の部分が問題です。
著作権法で保護される著作物とは、

思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの
著作権法第2条1)

です。「情報」と言った場合、「創作的に表現されたもの」という条件が曖昧になります。
また「情報」の後に「文字」とある点も疑問です。「文字」と言ってしまうと個々の「ひらがな」「かたかな」「漢字」「英数字」などに著作権が生じるという誤解を招きかねません。もちろん「ひらがな」の一文字、「漢字」の一文字に著作権が生じるわけはありません。
さらに、著作権法には次の規定もあります。

(権利の目的とならない著作物)
十三条 次の各号のいずれかに該当する著作物は、この章の規定による権利の目的となることができない。
(中略)
三 裁判所の判決、決定、命令及び審判並びに行政庁の裁決及び決定で裁判に準ずる手続により行われるもの

つまり、裁判所のサイトに掲載されている「判例」は著作権の保護の対象にならないのです。
従って、

当サイトに掲載されいている個々の情報(文字,写真,イラスト等)は,著作権保護の対象となっています。

との記述は明らかに間違っています。

さらに、もっと問題なのは次の部分です。

当サイトの内容は,写真・イラスト及び無断転載を禁じる旨の注記がある記事を除き,著作権法上認められている利用を行うことができます。

著作権法上認められている利用」にはいくつかあります。
著作権は権利の束、と言われるように、いくつかの権利の集合体です。
具体的には第17条において

第三節 権利の内容
第一款 総則
(著作者の権利)
第十七条 著作者は、次条第一項、第十九条第一項及び第二十条第一項に規定する権利(以下「著作者人格権」という。)並びに第二十一条から第二十八条までに規定する権利(以下「著作権」という。)を享有する。

と、具体的な権利の範囲を定めています。
逆に言えば、ここに記されていないところには、著作権者の権利は及びません。つまり、上記に記述されていない行為は「著作権法上認められてい」ます。
もう一つ、著作権法第30条〜第50条において権利の制限が規定されています。例えば、「私的使用のための複製」や「引用」がそうです。それらの行為にも、著作権は及びません。
これらは、著作権者が認めようが認めまいが、誰もが自由に行えるのです。
つまり、「写真・イラスト」であろうと、「無断転載を禁じる旨の注記」があろうと無かろうと、「著作権法上認められている利用」は行ってかまわないのです。著作権者がそれを禁じることはできません。
これまでに裁判所が下した、著作権法に関する判例でもそうなっています。
裁判所のサイトが、これまでの判例とは違った法解釈に基づく主張をしていることは、司法府として非常に問題だと思います。

文化庁のサイトも、著作権法上問題のある表記をしていますし、フレーム内リンクといった、著作権法上問題のある行為をしたこともありますが、文化庁は行政府です。裁判によっては、行政府の解釈と異なる判断が司法府に寄って下される可能性もあります。

しかし、裁判所は司法府です。裁判所の判断(=判例)が法解釈を決定づけるのです。その司法府のサイトが、過去の判例とは異なる主張をしているのは、司法府としてあってはならないことです。それは、過去の判例を軽視することになります。
司法府が過去の判例を尊重しない、軽視するということは、日本が法治国家であること自体を否定することにもなりかねません。
一日も早く、この記述が訂正されることを望みます。