JASRACと著作権等管理事業法

鎌津間ブログで紹介されていた週刊ダイヤモンドの記事を読んだ。

企業レポート 日本音楽著作権協会ジャスラック
使用量一〇〇〇億円の巨大利権 音楽を食い物にする呆れた実態
松本裕樹. 週刊ダイヤモンド. Vol.93, No.36, (2005年9月17日号), p.6-59.

JASRACの問題点を指摘したいい記事で、文化庁天下りや理事会の問題などが取り上げられている。
しかし、私が一番注目したのは次の所。

 管理楽曲数二二六万曲(データベース登録数)、会員・著作権信託者は合計で一万三六〇〇人。圧倒的な規模を誇るジャスラックがかくも強引な使用料徴収に注力し始めたのは〇一年以降のことである。〇一年一〇月に著作権等管理事業法が施行され、著作権管理事業が許可制から登録制に変わったことで民間参入が相次いだため、それまで唯一の事業者だったジャスラックに焦りが生じた。
 その結果が、法的措置件数の急増である(右ページグラフ参照)。とりわけ民間調停については、二〇〇〇年に一一七件だったものが、〇四年度にはじつに二五八二件にまで増えた。

私は以前から、著作権等管理事業法は利用者にはメリットのない法律で、むしろ利用者が抑圧されると考えていたが(id:copyright:20040925:p2)上記の記述は私のこの考えを補強するものだ。
著作権等管理事業法が、JASRACの横暴を助長しているのだ。

ではなぜ著作権等管理事業法が利用者を抑圧するのか、JASRACを暴走させるのか、もう一度整理してみたい。

著作権等管理事業法は上記引用にもあるとおり、登録制にすることで著作権管理事業への参入を容易にするための法律だ。音楽の分野に関して言えば、第2のJASRAC、第3のJASRACを生むための法律と言ってもいい。
ここで一つ利用者が不便になる。
第2JASRAC、第3JASRACができることで、利用者がある特定の楽曲を利用したいと思ったときに、その楽曲はどの団体が管理しているのか調べなければならなくなった。利用許諾を得るための手間が一つ増えるのだ。
しかも、管理事業者には管理著作物のリストを利用者に提供する義務は無い。*1手間ひまかけてどの団体が管理しているか調べても、どこが管理しているかわからない、というケースも出てくる可能性があるのだ。
仮に、無事管理している団体が判明したとして、その団体が仮に第2JASRACだった場合、第2JASRACから許諾を得なければならない。これまで実質JASRACだけと契約していればよかったのが、第2JASRACとも契約しなければならないのだ。
つまり、複数の管理団体が出てくることによって、まず、どこが管理しているか調べる手間が増え、許諾契約を結ぶ先も増えてしまう。利用者にとっては、手間が増えるだけにすぎない。

さて、第2JASRAC、第3JASRACができて、JASRACと競争を始めたとして、そこでも利用者は抑圧される。管理事業者間の競争が利用者を抑圧する構造になっているのだ。

なぜ、利用者が抑圧されるのか。
管理事業者が複数あったとしても、利用者には選択肢は無いからだ。

ある特定の楽曲、例えばサザンの曲を利用したいと思ったとする。
その場合、利用者はサザンの曲を管理している団体から許諾を得なければならない。それはJASRACかもしれない、第2JASRACかもしれないが、利用者には選ぶことはできない。どの団体が管理しているかによって、許諾先は決まってしまうのだ。
つまり、ある特定の楽曲の利用に関しては、窓口は一つしかないのだ。
だから、管理事業者の側から見れば、利用者に対して他の管理事業者より利用者に有利な条件を提示する必要はない。利用者は、使い勝手がよかろうが悪かろうか、料金が高かろうが安かろうが、その管理事業者の提示する条件に従わざるを得ないのだ。*2

逆に著作権者側に対しては、管理事業者間での競争は行われる。
より多くの、より利用の多い楽曲を管理していれば、自然と著作権料収入は増えてくるからだ。
第2JASRAC、第3JASRACとしては、JASRACからより多くの著作権者を引き抜くことが収入増に繋がることになるのだから、JASRACよりも著作権者側に有利な条件を提示することになるだろう。つまり、JARACよりもたくさん著作権使用料を分配しますよ、ということだ。
一方JASRACとしても、第2JSARAC、第3JASRACに著作権者を奪われないように様々な手を打つことになる。
一つは、著作権者が他の管理事業者に移らないように締め付けるということがある。*3
そしてもう一つは、JASRACがより多く使用料を集めて、著作権者にたくさん分配するということで、権利者をつなぎ留めておくという方法だ。言い換えれば、利用者からたくさんのお金を巻き上げることで、権利者が他の事業者に移るのを引き留めるということだ。
つまり著作権等管理事業法は、利用者からいかに多くのお金を巻き上げて、権利者にたくさん分配するか、という競争をひき起こしているのだ。

そう考えると、JASRACが強引な徴収をしたり、法的措置を増やしている理由がわかってくる。
JASRACは、利用者から強引に徴収したり法的措置をとることで、著作権者のためにこれだけがんばっているのだ、という姿勢を示して、JASRACに委託しておけばたくさん分配を得ることができる、ということをアピールしているのだ。
そうすることがJASRACの利益に繋がるのだ。
著作権等管理事業法とはそういう法律なのだ。

現在の著作権等管理事業法がある限り、JASRACの暴走は止まらない、いや、JASRACの暴走はますます加速すると、私は思います。

*1:努力義務はあるが、努力したが提供できない、ということが法律上はあり得るのだ

*2:利用をあきらめるという選択肢もあるが

*3:今回はちゃんと調べていないが、他の管理事業者に一部でも委託した場合、不利な条件を押しつけてくるということがあるようだ