「有識者」のダブルスタンダード

著作権白書−文化的側面からみて−
著作権研究所研究叢書No.11
著作権情報センター附属著作権研究所 発行
2004.3

図書館で借りて読んでみた。
権利者側の一方的な主張をまとめたもので、ツッコミどころも多いが、細かく指摘するのは大変なので、一番気になったところだけ指摘する。
本書に参考資料として「有識者の意見」が収録されていて、その中に、著作権白書委員会針生一郎委員の意見書が掲載されている。(76-80ページ)私はよく知らないが、針生委員は評論家らしい。
針生氏が図書館について次のように批判している。(80ページ)

実は先ごろ9.11以後の世界情勢にふれた珍しい日本文学として辻仁成の小説『オーキフの恋人オズワルドの追憶』上下を近所の公立図書館にあたってみた。すると図書館側の答えでは、この小説上下を10セット購入しているがベストセラーのため予約殺到して来月までは順番がこないというので、やむなく書店で買って読んだ。話には聞いていたが、公立図書館までベストセラー追っかけの風潮に乗っかって、長く読まれるべきすぐれた学術書、貴重な調査書、個人全集、画期的な創見にみちた評論、随筆などを備えておかないのは本末転倒でなげかわしい。予約殺到しそうなベストセラーの貸出しを制限し、同時にあまり売れない学術書や力作評論などにも多少の還元の道をひらくには、公立図書館の貸出しにも著作権料をかするのがいいのかなと思案中だ。

近所の公立図書館が、『オーキフの恋人オズワルドの追憶』を10セット購入してそれが全部貸し出し中である、ということだけから、「公立図書館までベストセラー追っかけの風潮に乗っかって、長く読まれるべきすぐれた学術書、貴重な調査書、個人全集、画期的な創見にみちた評論、随筆などを備えておかないのは本末転倒でなげかわしい」と言い切ってしまえる、針生氏の思考回路は一体どうなっているんでしょう。
そもそも、針生氏自身が「ベストセラー」の『オーキフの恋人オズワルドの追憶』を図書館で借りようとしているのではないか。
針生氏は、自分が「ベストセラー」を図書館で借りるのは良いが、一般の利用者が図書館に「ベストセラー」を求めてはダメだというのだろうか。
せめて、図書館がベストセラー提供することを批判するなら、自分は図書館ではベストセラーを一切借りない、というぐらいのスタンスは取るべきでしょう。
作家達の図書館批判・図書館利用者批判には、このようなダブルスタンダードがよく見られるが、作家達は自分達が特権階級であるかのように勘違いしているのではないか。
このような自分勝手な主張を振り回すのは止めてもらいたい。