ビジネス法務

中央経済社という出版社が発行している「ビジネス法務」という雑誌があります。
その雑誌の最新号(Vol.4, No.6, 2004)に「特別企画「著作権問題」最前線」というのが掲載されています。
内容は次の3つ。

1.【特別インタビュー】著作権法改正!出版業界が考える権利のありかた 金原優
2.逆輸入阻止権 貸与権 改正著作権法のポイント 北村行夫
3.【出版をめぐる新たな問題】「週刊文春」事件に見る差止仮処分とプライバシー権 内藤篤

2.のQ&Aは通り一遍な解説で、洋盤の輸入禁止の問題などには一切触れられていません。
貸与権についても、ただ触れられているだけ、と言ったレベルのものです。

でも、これはまだましです。
問題は1.の金原氏へのインタビュー。
金原氏は医学書院の社長で、文化審議会著作権分科会の委員でもあります。
ちなみに、医学書院は3月16日付けで取り上げた出版社です。(id:copyright:20040316#p2)

このインタビューのどこが問題かというと、ありすぎて困るのですが、とりあえず「貸与権」関連で2点指摘しておきます。

あくまでも営利目的に貸与すると言うところについての権利行使であって,個人的な貸し借りは除外されて然るべきです。法律の条文では,私的なレンタルも禁止されますが,権利者はそこまで行使しません。
(12ページ)

最初の文章では「個人的な貸し借り」と言って、次の文章では「私的なレンタル」といっているので、ちょっと混乱しますが、「個人的な貸し借り」は友人同士などの限られた範囲内での無償の貸し借り、「私的なレンタル」は「レンタル」なので有償ととらえ、友人同士などの限られた範囲内での有償の貸し借りのことであると、私は解釈しました。
まず、前者の「友人同士などの限られた範囲内での無償の貸し借り」は非営利・無料の貸与なので、当然貸与権が及ぶところではありません。ですから、金原氏が言うまでもなく、権利行使などできません。
次に、「友人同士などの限られた範囲内での有償の貸し借り」ついても、貸与権は及びません。
なぜなら、貸与権とは「複製物の貸与により公衆に提供する権利」であって、「友人同士などの限られた範囲内での貸与」は「公衆に提供する」行為には当たらないからです。
「法律の条文では,私的なレンタルも禁止されます」は明らかに間違いです。

もう一つ指摘しておきたいのは次の箇所。

 貸与権が認められると,著作者は図書館に対しても,貸与に対する報酬を主張できます。
(13ページ)

図書館が営利もしくは有料で貸与を行っていれば、権利は主張できるでしょう。ですが一般的に図書館(公共図書館)が行っているのは非営利・無償の貸与です。非営利・無償の貸与は著作権法第38条の4により、権利が制限されています。
ですから、報酬を主張するのは自由ですが、法的な根拠はありません。

この程度の理解で文化審議会著作権分科会の委員をやっていて、法改正の審議を行っているのだから、あのような法改正案がでてしまうのも仕方ないのだろうか。
いや、仕方ないではすませられない。