続・情報基盤としての図書館

根本彰氏の「続・情報基盤としての図書館」を読了。

続・情報基盤としての図書館 (図書館の現場)

続・情報基盤としての図書館 (図書館の現場)

第1章の「ベストセラー提供と公貸権について考える」は、ここ数年の公貸権をめぐる議論を冷静に概観するとともに、出版11社の会が行った調査を元に考察を行っており、お勧め。
「公貸権」について考える上で、参考になる。
少なくとも、糸賀氏のように「読書ハラスメント、読ハラ」等という言葉をつかって、図書館及び図書館利用者が出版社や作家をハラスメントしているという暴論(id:copyright:20031221#p2)は出てこない。
公貸権の議論を行う際には、図書館学研究者の代表としては、糸賀氏ではなくて、根本氏に出てもらいたい。

一方で不満な点が無いわけではない。
一つは、出版界の現状をそのまま議論の前提としており、出版界の問題点については、ほとんど触れられていない。例えば、推理小説などは半年たったら売れなくなる、ということを推理作家は主張するが、根本氏はその主張を前提に考察を行っている。しかし、私は、それは出版流通の問題であり、出版流通の仕組みを改善することで、もっと長期にわたって売り上げ維持することは可能ではないか、と考えているので、根本氏の考察には物足りなさを感じる。
もう一つの不満は、1970年代からの図書館貸出の増加について概観しているところがあるが、その考察の部分の特に90年代について、その基礎となるデータが提示されていない点である。

今のように貸出サービスに力を入れはじめるのは一九七〇年代以降であって、経済バブル期を経てその傾向は高まっていくが、貸出サービスが問題になったのは、バブル崩壊後、経済不況の中で図書館利用が急激に増えたことと無関係ではない。この時期、同時に資料購入費の減少が起こっているから、図書館は価格が高い教養書や学術書を避けて、多くの利用が見込めるベストセラー類を中心に購入した結果がもたらしたものということができる。

(「続・情報基盤としての図書館」35ページ〜36ページ)

この部分について、私はそう簡単に言ってしまっていいのだろうか、と疑問を感じる。そういうのなら、その根拠となるデータを提示してもらいたい。
前に、文部科学省が行った調査結果をもとに、図書館貸出の増加傾向が鈍化している、と考察したことがあるが、(http://d.hatena.ne.jp/copyright/20030920)データがあれば、いろいろと検証することができる。少なくとも、参考文献ぐらいは上げて欲しかった。

とは言え、最初に述べたとおり、「公貸権」について考える上でとても参考になることにはかわりない。本書を元に、建設的な議論が行われることを期待したい。