複本は日本独自の問題か?

三田氏は公共図書館がベストセラーを複数冊購入することを批判します。確かに、図書館には幅広い蔵書構成が必要な場合も多いので、耳を傾ける必要が無いとは言いませんが、三田氏は本書*1の13ページで次のように述べています。

著作者の多くが不満を覚える日本の図書館に特有の状況があるのです。
 それは、「複本」と呼ばれるものの存在です。

この部分を読んで、私は頭をひねりました。
「複本」が日本特有の問題だとは思わなかったからです。
私は大学時代に図書館・情報学を専攻していたのだが、そのときに、「複本」について習った記憶があります。利用のあまり見込めない本を購入するより、現在利用の多い本の複本を購入するほうが、利用者の満足度が高まると、いった内容だったと記憶しています。(そのときの教科書を見返すことができなかったので、もしかしたら記憶違いかもしれません)
日本の図書館・情報学はアメリカの図書館・情報学の影響を受けているので、少なくともアメリカで「複本」はあるのではないかと思いました。
さらに三田氏は58ページで次のように述べています。

 前述の、イギリスのPLRのホームページには、「図書館はただ一冊の本を購入して、その本を百人の借り手に貸出」というくだりがありました。これを見ると、百人からのリクエストがあっても、本は一冊しか保有しない、というようにも読み取れます。少なくともイギリスの図書館には、「複本」という発想はないようです。

三田氏は自分の都合の良いように文章を解釈するようですが、本当にイギリスの図書館に「複本」という発想は無いのでしょうか?
そこで、現在ではインターネットで蔵書目録を公開している図書館が多いので、調べてみました。一番複本がありそうなのはハリーポッターでしょう。
まずは、アメリカ。LOS ANGELS PUBLIC LIBRARYの目録を調べてみました。
http://www.lapl.org/
ハリーポッターシリーズの最新巻の"Harry Potter and the order of the Phoenix"をどれだけ所蔵しているのでしょうか。
すると出てくる出てくる。71の分館全部で936冊所蔵しています。
http://catalog1.lapl.org/cgi-bin/cw_cgi?fullRecord+28068+965+1830433+7+0

次にイギリス。Southampton Librariesの目録を調べた所、ここでは63冊所蔵していました。
http://www.southampton.gov.uk/Libraries/
http://library.southampton.gov.uk/cgi-bin/soton-cat.sh?enqtype=TITLE&enqpara1=secondlist&text=HARRY+POTTER+AND+THE+ORDER+OF+THE+PHOENIX&etitle=harry+potter

参考までに国内でも調べてみました。但し"Harry Potter and the order of the Phoenix"ではなく、「ハリー・ポッターと炎のゴブレット」で調べました。
横浜市立図書館では115冊所蔵していました。
http://www.lib.city.yokohama.jp/cgi-bin/Swwwsvis.sh?0+99293+69+4+0+202064179+0+1+33+0+1+1+1

少なくとも、アメリカでもイギリスでも「複本」はあることが分かります。
三田氏は「複本」は「日本特有」の問題と言いますが、海外の図書館についてどれだけ調べたのでしょうか? 海外の図書館のホームページでちょっと調べてみればこれだけのことがわかるのですが、三田氏はそのような調査はしなかったのでしょう。「建設的な提言」の結構重要な部分である「複本」について、基本的な調査をしなかったのなら、この「提言」はほとんど意味をなさないと思います。

*1:三田誠広「図書館への私の提言」勁草書房(2003年)ISBN:4326098287